新井さんはクレープもお好き

「すみません。デラックスチョコバナナとスーパーデラックスラズベリーアーモンドを1ずつ!」


「はーい、あわせて1000円でーす!」


俺はクレープを焼いてる店主のお兄ちゃんに1000札を渡す。


するとすぐに店主のお兄ちゃんが鉄板に生地を流し込み、焼き始める。


「こんなところでこんな夜10時過ぎにクレープ屋さんがやってたんだね」


「うん。知らなかった」


すると店主。


「先週から始めたんですよ! 水曜日から日曜日まではここでやってるんでご贔屓によろしくお願いします」



そう言ってペコペコしながらクレープを作っていく。


みのりんとの会話に入ってくるんじゃねえよ。バカヤロウと思ったが、俺はまだあと2時間くらいは1軍選手なので、当たり障りのない会話を続ける。


「お兄さん結構若いよね? おいくつ?」


「26っす。小さい頃からクレープ屋やるのが夢でして」


「へえー。まあ、ご贔屓にするかどうかは味次第だけどね。俺をクレープで唸らせることができるかな?」



「お手柔らかにお願いします」





お兄ちゃんから差し出されたクレープにさっそくパクつく。







「うんまぁ…………このクレープめっちゃ美味いじゃん! なにこれ!? こんなクレープ食べたことないよ!」


「ありがとうございます!!」


さてさて。クレープのお味はいかがかな? ちゃんと夢叶ってんの? と思いながら食べたクレープを俺はあなどっていた。


「新井くん。とっても美味しいね」


みのりんも両手で持ったクレープに満面の笑みでほっぺにクリームをつけながらかぶりついている。


俺は食べてすぐにこのクレープの違いに気付いた。


「お兄ちゃん、これは生地の粉と生クリームに相当こだわっているね?」


「分かります? クレープにとって、生地とクリームは、ラーメンでいう麺とスープ。まさに命なんです!」


なるほどね。お兄ちゃんが突然自信満々になるのも分かるわ。


これはレベルが違う。


俺のサイン色紙を飾ってあげたいくらい。


「お兄ちゃん。俺のサインいる?」


「いえ。いらないっす」



「後悔するぞ」


「どういう意味です? 有名人なんですか?」


「お兄ちゃん、野球は好き?」


「ええ、まあ。野球部だったんで。どうしてです?」



「今に分かるさ」




「は、はあ………」














「おはよう、新井くん。なんや、またケガしたんかいな。しょうもない子やで」


翌日。朝、洋菓子工場帰りのみのりんをランニングがてら迎えに行き、そのままの足で俺は2軍の練習場へと足を向ける。


すると、コーチミーティング終わりの関西弁コーチが現れたが、なんだか嬉しそうだ。


「左手が使えなくても出来るトレーニングはいくらでもあるさかい、10日間みっちりいくから、よろしゅうな」


やだなあ。また体力トレーニングかよ。


「まず着替えたら、屋内に移動してエアロバイクや。ほら、はよ着替えに行かんかい」


関西弁コーチに背中をトーンと押され、俺はロッカールームへと向かう。


他の2軍選手達も着替えをしているところで、俺もその中に交じり、トレーニングウェアに着替えてジム施設のあるトレーニングルームに向かった。


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