また2軍暮らしですわよ。
「よし、準備オッケーやな。まずは、いつものペースで1万メートルいくで。ほな、ポチっとな」
左腕が痛い俺用に、エアロバイクのハンドルを右手だけで握っても安定するように調整した関西弁コーチは、俺がそれにまたがると、パネルのボタンを押す。
すると、ペダルがぐっと重くなり、それを漕ぐ度に1メートル2メートルとカウントされていく。
「50分もあれば10キロ走れるやろ? グラウンドに行って他の選手の状態をチェックしてくから、新井くんは真面目にトレーニングするんやで。ええな?」
「ういーすっ!」
関西弁コーチはそう言い残してトレーニング室を出て行ったので、俺は迷うことなくエアロバイクを下りてマットの上に寝転んだ。
大丈夫、大丈夫。パネルを上手くいじれば、10キロ走ったことになるから。
さて、30分くらい横になって休もっと。
なんで左腕をケガしてるのにトレーニングしなくちゃいけないんだよ。
「新井くーん。終わったかーい?」
1時間後。関西弁コーチがグラウンドの方からトレーニング室に戻ってきた。
俺は左腕を怪我した状態で今まさにエアロバイクトレーニングを終えたように表情を披露した。
「ひぃひぃ。やっぱり片手使えないのはつらいっすわー」
俺はタオルで汗を拭う仕草をしながらコーチが戻ってくるまでずっと座っていたその場に座り込む。
「ほんじゃ、少し休んだら、下半身の筋力トレーニングしよか。それが終わったらメシやで」
「ほーい」
その後無難にトレーニングをこなし食堂でおばちゃんの美味しい昼飯を頂いた俺はもう出来るトレーニングがなくなっていたので、2軍練習場のミーティング室に入り、スコアラーが集めた他球団のエース級ピッチャーの映像でも見て時間を潰すことにした。
そして、みのりんやギャル美とメッセージのやりとりをしながら、ふと外を見ると梅雨らしいじっとりとした湿気を運ぶ大粒の雨が降り始めていた。
その数日後………。
「いや、ほんとに!! もう全然痛くないんす!」
「君ねえ。早く復帰したいのは分かるが、そうやって強がるのはやめなさい」
ケガをしてから3日経った頃。朝起きて、今日も関西弁コーチのしごきが始まるのかあとゆううつな朝を迎えたのだが、なんだか体の調子がいい。
なんと、打撲したはずも左腕が全く痛くないのだ。
これがほんとに。いや、マジで。強がりとかじゃなくて。
だから、お医者様のところに行ったのだが、担当医のおじさんは俺を睨み付ける。
「どれ。みせてみなさい」
おじさんは俺の左腕を取り、ロンTの袖をまくると故障箇所を叩いたり、つねったり、雑巾絞りしたりするが、全く痛くない。いや、マジで。
寝る前までは普通に痛かったのだが、今は全く痛くないのだ。
それが医者のおじ様も理解してくれたようで、俺の腕を離した。
しかし、その表情は険しいままだ。
「君の言うように、3日しか経っていないが、多少回復しているのは認めよう。だが、トレーニングの許可を出すことは出来ない。今日は帰って、コーチの若井君の言うことを聞いて、昨日までの筋力トレーニングだけにしておきなさい」
もう! わからず屋!!
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