眼鏡女子はラーメンがお好き1

「新井くん………大丈夫だよ。むしろ、立派。試合中なのに、相手の選手を気遣うことが出来るなんて、新井くんは素晴らしい」


みのりんは真っ暗な部屋でうなだれる俺に優しく声をかけ、そう励ます。


俺の様子を確認して、色々察したのだろうか。彼女は俺の隣で同じようにベッドに腰掛けそっと静かに座る。


部屋は暗いまま。電気を点ける仕草すらしなかったの彼女に、奥ゆかな心遣いを感じた。


みのりんの肩と膝がぴたっと暗闇の中で触れあう。


俺は時間をかけながら色々と話した。今日のこと。これからのこと。不安。微かな自信。


俺の気持ちを形成するだいたいのことを彼女に話した。


俺が口を開く度に、彼女はうんうんと相づちを打つ。


20分か30分か。そのくらいの時間、みのりんに話を聞いてもらっていると、なんだか気持ちが楽になった気がした。


まるで心のモヤが晴れ渡っていくようだ。




真っ暗な空間に、ベッドに腰掛けて優しく囁く眼鏡女子。



ちょっとムラムラしてきた。








そして次はみのりんが口を開いた。


「新井くん。今日の晩ごはんはラーメンにしよう。ラーメン食べに行こう」



みのりんはそう言ったのだった。そして、さっさと立ち上がり、外出する準備を済ませろと、俺を急かした。




せっかくのムードだったのに。





「ねえ、新井くん。せっかくだから、歩いて駅まで行うよ」


「お、おう。いいよ」


みのりんは俺の部屋から出ると、1度部屋に戻り、バッグを持って上着を1枚羽織って、また戻ってきた。


俺はまだ入団して間もないので、社会人ルーキー扱いとはいえ、まだ車を所有していいという球団からの許可がまだ下りていない。


今まで乗っていた軽自動車も、親戚の大学生に譲ってしまったし。


ということなので、駅やら2軍練習場に行く手段はバスや自転車だったのだが、みのりんは駅まで歩こうと言い出した。


駅まで歩くと20分か25分か。そのくらいかかるのだが、彼女と一緒に夜道を歩く間、ずっと話をしながらというわけではなかったが、ちっとも退屈な時間には感じなかった。


そして駅の外観が見えてきた1本の路地裏。


みのりんが指差す。


「あそこ。美味しいラーメン屋さん」





たどり着いたのは、駅前の大きな通りから少し外れた路地の一角。


流系ラーメンと店先にはかかれている。


赤い暖簾にレトロな佇まい。本当にラーメン1本で勝負してそうなそんな印象を受ける。


「さあ、入ろう」


みのりんに背中を押されて、ガラガラと入口の戸を開けて店内に入る。


「はい、いらっしゃい!! 2名様ご来店でーす!!」


「いらっしゃいませえ!! 奥のお席へどうぞー!!」


店内に入ると、店員さんの威勢のいい声が店内に響いた。


店内はカウンター席オンリーで、15席あるかないかのこじんまりとした店だが、仕事帰りのサラリーマンや飲み会終わりっぽい若いお兄ちゃん達で、店内は賑やかだ。


奥の席が2つだけ空いているのが見える。


俺とみのりんが来て店内は満席だ。


「新井くんは席に座って待ってて」


みのりんはバッグから財布を取り出し、券売機にお金を入れて随分と慣れた様子で食券を2枚購入して俺の隣に腰を下ろした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る