ドッキドキの守備機会

「田中の左中間の当たりをセンターの柴崎が俊足を飛ばして掴みました! これは、いいプレーだ!1アウトです!」


「オッケイ! 1アウト、1アウト!」


俺が捕ればいいのか最後の最後まで悩んだ打球を柴ちゃんが颯爽と俺の前を横切り、軽くジャンプするようにして掴んだのだ。


彼はボールをショートの赤ちゃんに返し、俺に向かって人差し指を1本立てる。


「新井さん、今の捕れました?」


「あたぼうよ。まあ、今のはセンターの見せ場だからな、譲ってやるよ」


正直、彼が一瞬救世主のように見えたが、俺は強がって、面白がって、立ち上がりながらそんな言葉を返した。


「あはは! じゃあ、次は新井さんに任せますよ」



柴ちゃんはそんな言葉を残してセンターの定位置へと戻っていく。



いやあ、危ない打球だった。


どっちかというと、俺が捕るべきボールだったからなあ。終わってみれば。


多分、ベンチに帰ったら、守備走塁コーチに注意されるだろう。


しかし柴ちゃんは、打球が上がって、俺の1歩目の動き出しや追い方を見て、初のスタメン、初の守備機会に、硬くなっているのを感じてフォローしてくれたのだろう。


さすがは開幕直後からレギュラーに定着している奴だ。


今回は助けられたな。


まあ、野球ゲームでも、俺の守備能力はEだし。



今のプレーを見たら妥当なところだ。








「これは引っかけました! サードの阿久津が軽快に捌いて1塁アウト!! 3アウトチェンジ! 北関東先発碧山、初回3者凡退! 素晴らしい立ち上がりです!」


柴ちゃんの好プレーのあとは、三振とサードゴロでテンポよくワンツースリー。


西日本リーグ首位チームを相手に最高の立ち上がりといえる。


ビクトリーズナインは駆け足でベンチに戻り、1回ウラの攻撃に備える。


ベンチに戻った俺は、いつもの後ろのはしっこの場所をマイポジションとしていたのだが、ベンチの真ん中の1番前に座るキャプテンの阿久津さんが俺を呼ぶ。


「おい、新井。スタメンで出てる人間は、前のベンチに座って相手投手を見ておけ」


キャプテンにそう言われたが、こっそりケータリングでなんかつまんだり、すぐトイレに行ける後ろの場所が好きだったのだが、8歳年上のキャプテンに言われてしまったら仕方ない。


俺は分かりましたといって、バットとグラブ。みのりんタオルを持ってグラウンドがよく見えるベンチの前の方へと移動した。








北関東ビクトリーズスターティングラインナップ


1番センター 柴崎 .244 2本 14打点


2番ライト 桃白 .242 3本 16打点


3番サード 阿久津 .250 4本 22打点


4番ショート 赤月 .242 4本 20打点


5番ファースト シェパード .225 6本 27打点


6番キャッチャー 鶴石 .2113本 15打点


7番レフト 新井時人 1.00 0本 0打点


8番セカンド 浜出 .195 0本 7打点


9番 ピッチャー 碧山 5試 1勝2敗


「ご覧のようにこちらが本日の北関東ビクトリーズスターティングメンバーです。最近好調でした高田は腰の違和感があるということで、今日スタメンから外れています。 2番に桃白が入りまして、7番には、2軍から今日昇格した新井がプロ初スタメンです! 大谷さん、これは楽しみですね。スタメンにルーキーが4人。碧山を入れると5人がスタメンですねえ」


「ええ。開幕したばかりの頃はね、なかなか機能しませんでしたが、最近は非常に頑張っていますね。新井も前村から唯一ヒット打っていますから、彼が外野の1角で仕事出来るなら、ビクトリーズにとっては大きいですね」

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