ドッキドキの初な守備機会
センターの柴ちゃんと肩慣らしのキャッチボール。
柴ちゃんに1球投げ返す度に、今日先発のドラフト2位ルーキー左腕の碧山君も投球練習を1球行う。
その度に試合開始の時が近付いているわけで、緊張感が倍々で増していく。
やはり、代打で途中から出るのと、先発でまず守備に就くのは全然別物だ。
柴ちゃんがキャッチボールしていた球をベンチへ投げ返し、俺は胸の辺りのユニフォームを掴んで、落ち着け、落ち着けと自分に言い聞かせる。
「「ひろーしまーカルプスーあかいーいろー!」」
後ろのレフトスタンドでは、広島カルプスの赤い応援団が試合前の応援歌の大合唱。
最前列から最上段まで。さらにレフトポールから、3塁側ベンチの上まで、老若男女赤いユニフォームがスタンドを埋め尽くし、1つになった野太い地鳴りのような声がグラウンド中に降り注ぐ。
碧山君が最後の1球、投球練習を終え、受けた球をレギュラーキャッチャーの鶴石さんが2塁へ投げ返し2塁ベースに入ったセカンドの浜出君が捕球し、ショートの赤ちゃんへ。
そしてサード阿久津さん、ファーストのシェパードとボールが渡り、ピッチャーの碧山君にボールが戻った。
「1回表、広島カルプスの攻撃は、1番ショート田中」
相手チームの左バッターが打席に入り、スタジアム中が大歓声に包まれた。
「さあ、間もなく試合が始まります。解説には、お馴染みになりました、東北レッドイーグルス創設期のキャプテンでもありました大谷さんです。よろしくお願いします!」
「はーい、よろしくお願いします」
「今日のビクトリーズ先発はドラフト2位ルーキーの碧山です。前回登板、京都戦で6回途中2失点でプロ初勝利を挙げています。今シーズンは5試合に先発して1勝2敗。防御率は4、31です。さあ、プレイがかかりました。碧山振りかぶって先頭打者田中に対して第1球………打った! これは3塁側スタンドへのファウルボール。初球は、外のストレートでした。136キロストレート」
初球スイングされたボールがレフトに来たかと思った。
あかん、あかん。
そのファウルくらいでいちいちドキドキしていては、1試合身がもたないぞ。
もっと落ち着いて余裕をもたないと………、
カンッ!!
「打ちました! 打球は左中間に上がった!」
あかん! こっちに飛んできてる!
太陽が沈みかけているオレンジ色の空に、白球が舞い上がる。
頭の上を越えるような当たりではないが、簡単に追い付ける打球でもない。
左中間の真ん中に上がったが、これは俺の守備範囲の打球ではない。俺はそう思いながら打球に反応し追いかけ始める。
しかし、左バッター特有のスライスする打球。そのスライス具合が予想以上で、左中間の真ん中からレフト方向へ。
すなわち俺の方に向かってくる。
やばい、このままランニングキャッチ出来るか!?
スライディングキャッチでちょうどいいくらいか!?
いや、ダイビングキャッチを試みた方がいいのか!?
まてまて。まだノーアウト。初回先頭打者の打球だ。
無理にキャッチにいって後ろに反らしてツーベース、スリーベースが1番やばい。
これは無理する打球ではない!
などと1個の打球を追いかけるのに、様々な考えが俺の頭を巡り、体の動きを鈍らせている気がした。
しかし、それも彼の一声で解決する。
「オーライ、オーライ!! 新井さん、俺に任せて!」
俺は柴ちゃんの声だけが聞こえて、彼が向かってきているだろうラインの後ろへと逃げるように滑り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます