牽制アウトはいただけません。

2打席目。5回ウラ。


2アウトランナー1塁という場面で俺の2打席目が回ってきた。


相手ピッチャーはここまでいまだに無失点。被安打2。与四死球1とほぼ完璧な内容でこの責任回数にきている。


前の打席、ヒットを放っている俺は意気揚々と打席に向かう。


「また変化球こないかあ」


などと言いながら、キャッチャーと主審に挨拶をして、ピッチャーを睨み付ける。


前の打席、俺はアウトコースの変化球をライト前へおあつらえ向きのヒットを打っている。


そうなると、当然バッテリーはこの打席、ストレート中心の攻めになるはずだ。


もし俺が球界を代表するような強打者ならば、ウラをかいたり、ウラのウラを読み合ったりという駆け引きが生まれるのだが。



これは2軍戦。


宇都宮の街外れで平日の昼間に行われている観客100人ちょっとのただのファーム戦なのだ。


変な配球は俺ごときにはしてこないだろう。






カアンッ!!


1、2塁間の真ん中を俺の打球がゴロで抜けていく。


俺はにっこり笑いながら、1塁ベースを蹴ってオーバーランする。


やはり、前打席の変化球打ちがバッテリーの印象に残っていたのか、狙い通り初球はアウトコース低めのストレート。


俺の1番好きなコースだった。それを打ち返してやった。


ボール自体は140キロに届かないくらいのスピードなので、俺でも打つのに苦労するボールではない。


プロに入ってからもそれなりに練習しているんだ。


芯で捉えた打球が、セカンドとファーストのちょうど真ん中へ。ファーストは1歩も動かず、セカンドも1、2歩走ろうとしたところで諦めるような非常に気持ちのよい打球だった。



だから、牽制球でタッチアウトになったけど、1つも気にしない。


コーチからめちゃくちゃ怒られたけど、知らない。






第3打席目。


ピッチャーは右のオーバースローに交代した。


前の回から跨いで対する5人目の打者キャッチャーの北野君が簡単に打ち取られ、俺が打席にむかう。1アウトランナーなし。


俺がいつものようにごますりながら主審に挨拶を済ませ、今回はピッチャーを睨むことなく、淡々とバッターボックスでバットを構える。


1打席目は、アウトコースの変化球を打ってライト前ヒット。


2打席目は、初球にアウトコース低めのストレートを叩いて1、2塁間を破るヒット。


じゃあ、3打席目はどうしますか?


あなたがキャッチャーなら、どこに投げさせますか? って話ですよ。


キャッチャーとサインの交換を終えたピッチャーがノーワインドアップで投球動作に入る。


答えはそう。



インコースの速い球。



それも多少ボール気味のね!



バキッ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る