必殺技炸裂

「打球はファーストの後方…………セカンドが追う! ライトか、ライトが出てきた……!」


バットの先っぽがどっかに飛んでいった。


俺は打球を見ながら1塁へ向かって走り出す。


振り遅れて、決して芯で捉えた打球ではなかったが、非常に際どいところへ打球は上がった。


ライト線、ファーストの選手は打球を見上げるだけ、セカンドが猛然と追う。


やや前目に守っていたライトの選手も帽子を吹き飛ばしながら、死に物狂いの形相でダッシュ。


そして、その2人の選手が自らの身を投げ出して落ちる打球に飛び込む。


打球はその2人のそれぞれ3メートル向こう側に落ち、打球のスピンに弾かれた白線のチップが舞う。


打球はワンバウンドすると、鋭くスライスし、グラウンドに競りだしたエキサイトシートに飛び込み、観客の1人がキャッチした。




「打球はライト線に落ちまして、客席に飛び込みました。………打った新井は2塁へ到達しましたが…………1塁側ベンチ、大阪ジャガースベンチから金門監督が出てきました。………今の打球についてのリプレー検証を要求しますかねえ」


「そうですね。………非常に際どい打球でしたからね。リプレー検証は受理されると思いますよ」



一応打球はエキサイトシートに入ったみたいだけだ。念のため2塁まで走っておいたけど、なんだか様子がおかしい。


相手の監督が主審のところまで行って、何か話している。


まさか、メジャーのチャレンジ制度みたいにビデオ判定とかするんじゃないだろうな?


まあ、これがヒットかファウルなのかで、ノーノーできるかできないか決まるわけだけど。



ドーム内がずっとざわざわしたまま1分が経過。集まった審判3人が開いたバックネットからどっかに入り、残った2塁審判がアナウンス室からマイクを受けとる。


「えー、責任審判の原田です。ただいまの打球の判定についてリプレー検証を致します。しばらくお待ち下さい」



審判がそう話すと、スタンド中のジャガースファンから大歓声が上がった。






審判3人がグラウンドから離れ、特別やることのない俺はヘルメットを外して、2塁ベースに座り込んだ。


なんとなく振り返ってると、俺の打球のリプレー映像がバックスクリーンに映し出されていた。


ふらふらっと上がった打球をセカンドとライトが追う。


その2人がダイビング。


そこで映像がスローになり、地面に着きそうになる打球だけがアップになる。


空中で回転しながら落ちるボール。地面まで1メートル………50センチ………30センチ………20センチ………10センチ………5センチ………バウンドする。



「「「ああー………」」」



すると、スタンドから大きなため息。


絶望のため息がドーム内に充満する。


スロー映像を見る限り、俺の打球はちょうどラインの真上。


これ以上ないど真ん中。


ラインと打球が一緒フュージョンするくらいのど真ん中。


誰がどう見てもフェアだった。


そして、わりとすぐ審判3人が戻ってきた。

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