相手は前村。西日本のスーパーエース

「北関東ビクトリーズ、選手の交代をお知らせします! バッター、浜出に代わりまして! ピンチヒッター、アラーイ、トキヒート!! 背番号64!」



場内にアナウンスされ、俺はバットをにぎにぎしながら打席に向かう。


緊張をほぐすように、打席の横で屈伸をして、1回素振りをした。



そして、打席に入り、足場をならしながら、キャッチャーと主審にきちんと挨拶をして、ピッチャーを睨み付ける。


「バッターボックスには、今日1軍に昇格しましたルーキーの新井が起用されました。手元の資料ですと、ここまで4打席ありましたが、全て送りバントを成功させているという新井ですが、左バッターの浜出に代わって登場しました」



いくらノーヒットノーランがかかっているとはいえ、ルーキーで初見の俺にいきなり変化球で入ってくるとは思えない。


初球はフォーシームかツーシームで入ってくるはず。


それをセンター前に弾き返してやんよ。





俺がバットを構えて待ち構えると、相手ピッチャーの前村は、左手にロージンを付けてボールを握る。


なんか微妙にサインの交換が長かったな。嫌な予感がするなあと思いながら、足を上げた前村がその足を踏み出し投球する。


アウトコース低めの速い球。そう思って振りだしたら、ギュルンと落ちた。空振った。


初球からスプリットじゃねえかよ。


「初球は、低めのスプリット! これはよく落ちました。ワンストライクです」


2球目。初球スプリットということは、この辺りで速いのが1球来るはず。


それも、内側にドスンと投げ込んでくるはず。


「前村2球目投げました。………内側ツーシーム、ボール! これで1ボール、1ストライクです」



よしよし。


決め球にスプリットを持ってくるから、これで1球外目にスライダーか真っ直ぐでカウントを取りにくるはず!





カンッ!




あっ! 読み通り外から入ってくるスライダーだったのに。


思っていたより球威がすごくて、俺の打球は1塁側スタンドへのファウル。


これで1ボール2ストライク。


追い込まれてしまった。




追い込まれた。


そうなると、もうスプリットしか来ない。


もう今みたいな外からくるスライダーはこないだろう。


低めのスプリットなら、空振りか悪くてもファウル。ボテボテの内野ゴロになる可能性も高い。


俺のノーパワースイングでは、間違っても外野まで飛んだり、内野の頭を越えるような打球にはならないだろう。


俺がキャッチャーならそうする。ここは2球、スプリットを続ける。



カアンッ!



「ファウルボール!」





「ボール!」




よし。



1ー2からのスプリットは、カス当たりのキャッチャーの足元に飛び込むファウルボール。


その後のスプリットは、投げた瞬間ワンバウンドと分かるボール球。


カウントは、2ー2になった。


深呼吸しながら、チラッと見ると、キャッチャーがじろじろと俺のことを見ていた。


サインは決まったようで、ピッチャーが高く足を上げる。


ぐっと沈みこむように放ってきたボールは、速い球。


低い。ボールだ。


そう思ったが、ロンパオとストライクだボールだといっていたボールと同じ高さだった。


それがよぎった瞬間、俺はバットを振り出していた。


振り遅れたスイング。折れたバット。



しかし打球は、ライト線にふらふらと上がっていた。





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