新井さん、舞い戻る3

高めにぐっと浮いたように見えるボールが、グインと鋭く曲がり落ちる。


野球ゲームでいうと、変化量4威力CコントロールDといったところだが、さっきのノビのあるストレートを見た後だと、その変化についていけずに、俺のバットは空を切った。


「イエス!!」


空振りを取ったロンパオが投げ終わった体制から俺を指差してガッツポーズした。


「ヨッシャ! アライサンカラ、カラブリトッタヨ!」


「はあ? たかが1ストライク取っただけだろうが」


「トライアウトノリベンジネ! ツギハ、マッスグイクヨ!!」



そう言ったロンパオがわざわざ俺にストレートの握りを見せて、投球動作に入る。


しかしね。


またカーブだってのは、見え見えなんだよ、ロンパオくん!



俺の読み通り、真ん中からグインと曲がるカーブ。


1球見たあとで、同じ球なら体が自然に反応する。


手元まで引き付けて、ライト方向へと流し打ち。


俺が弾き返した打球は、ライナーでセカンド方向のネットにぶち当たった。完全なる俺の勝利である。


「はっはっはっ! ロンパオくん、俺を騙そうなんてまだまだ甘いよ! 台湾ドラフト1位もたいしたことないね!!」


「ナニヲ! モッカイ、ショウブ!!」


「おう、きやがれ!!






カアンッ!!


「よっしゃ! また、センター前ヒットー! イエーイ!!」


「クッ、ツギ!!」


気がつけば、30球40球、ロンパオの球を打ち返していた。


その中の半分くらいはヒット性の当たり。確かにロンパオのストレート、カーブのコンビネーションはなかなかだが、まだコントロールが甘い。


きちっと低めにきたボールをまともに打ち返すのは難しいが、ベルト付近にきたボールは、まあまあ捉えることができる。


「フンッ!」



ストレート。…………低い。


俺は見逃した。





「アライサン! イマノ、ストライク!」


「は!? 低いわ! ボール、ボール!」


「ギリギリハイッテル!」


「入ってねえよ、全然ボール!」


「ユズラナイ! ストライク!」


「うるさい! ボール!!」


などと、言い合っていると…………。



「いや、ストライクだな」


背後から渋い声。


「ギャー!!!」


思わず俺は声を上げた。いつの間にか知らんコーチが背後に立っていたのだ。



「そんなに驚くなよ。今のは、ストライクともボールとも取れるが、今日の主審は取るぞ。その低さ」


マジかー。まあ、追い込まれたら、一応カットしておくような球だけど。


「新井よ。いつまでお前はウォーミングアップしてつもりだ? 贅沢なバッティングピッチャーつけやがって。そろそろ切り上げて、ベンチに入ってろ」



「はーい」







「5回表、北関東ビクトリーズの攻撃は、5番指名打者シェパード」


ロンパオに付き合ってもらったバッティング練習を切り上げ、ベンチに入る。


まだ今日顔を合わせていなかったコーチやスタッフに挨拶を済ませ、後ろの空いていたチェアにグラブを置く。


ちょうどうちの攻撃が始まるところなようで長身のイタリア人がバッターボックスに向かっていく。


大阪サウザンドドームの電工掲示板には、シェパードのにっこりとした顔写真が現れ、イタリア・ボローニャ出身と表記されているが、そのすぐ下に表示された2割2分1厘という打率がむなしい。


「ストライクアウト!」


大阪ジャガース先発の相手左腕の落ちる球に長い腕が空を切り、あえなく三振。


ノー。みたいな感じでうつ向いて首を横に振りながらベンチに戻ってきた。



「6番ライト、桃白」

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