新井さん、舞い戻る4

「6番桃白、打ち上げました! ライトへのフライ、ほぼ定位置。掴みました。2アウトです」


5番シェパード、6番桃ちゃんと、連続して凡退し、バッターは今日レフトでスタメン出場の川田。


普段は代打の切り札としてベンチに控える男も、相手左腕にアウトコースいっぱいに変化球を決められ、空振り三振。


5回もあっという間にチェンジになった。


依然として、0ー7。大量リード負けは変わらないのだが、なんだかうちのチームの様子がおかしいぞ。


なんとなくチームの雰囲気が浮き足立っているというか、焦ってバッティングしているような。


そりゃあ、大量リード負けしているからかなと思ったが、スコアボードを見て俺は気付いた。


うちのチーム、未だにノーヒットなのだ。





試合が進行するにつれ、大阪サウザンドドームが異様な雰囲気に包まれていく。


6回表ウチの攻撃。8番鶴石サードフライ。9番浜出見逃し三振。1番柴ちゃん、ファーストゴロ。


相手である大阪ジャガースのエース、前村が貧打のビクトリーズ打線を全く寄せ付けないピッチング。


チェンジになると、ワアアッと、大阪ジャガースファンが歓声を上げて、メガホンを叩く。



「おいッ! なんとかしろ、お前ら!!」


1塁コーチャーに出ていた名も知らんコーチがベンチに下がりながら、手を広げて怒りをあらわす。


その声は守備につこうとしている選手の耳にも届いているだろうが、誰も返事を返すことはない。


「まあまあ、コーチ。落ち着いて」


とりあえず俺は、ベンチの隅に置いてあったあめ玉を1個、怒っているコーチに渡した。


「ああん!? お前もそんなことしてねえで、後ろでバット振ってろ!!」


怒られた。せっかくなだめようと思ったのに!


まあそりゃあ、みんな打ちたいのは山々なのだ。しかし、相手ピッチャーの出来が良すぎる。


150キロに迫るツーシーム系の真っ直ぐに、鋭く落ちるスプリット。そして、左バッターのアウトコースに消えると言われるスライダー。


これがコントロール抜群のサウスポーなんだから、攻略するのは難しい。


相手は西日本を代表するピッチャー。去年は防御率2、50で13勝。日本代表にも選ばれているピッチャーなんだから、なにも策がなかったら、うちの1割打線じゃこうなりますよ。







7回表、キャプテンの阿久津さんの一声でようやくベンチ前で円陣が組まれた。


「いいか。今日の前村のスプリットとスライダーはなかなか打てん。追い込まれる前に、カウントを取りにくる球を狙っていこう」


「「よおおしっ!!」」



みんなが声を出して、円陣が解ける。


「まずは1本打ちましょう! 1本!」


「高田、頼むぞ! 高田!!」


などと、気合いを入れて7回の攻撃に臨む。2番からの上位打線からだったが………。


2番高田さんは、2球目のストレート打ってセカンドゴロ。


3番阿久津さんは3球目のチェンジアップを捉え、フェンス際まで飛ばすも、センターのファインプレーで2アウト。4番赤月は初球攻撃。いい当たりもショート真正面のゴロで3アウトチェンジ。



いよいよやばくなってきた。

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