通りすぎる新井さん。

「あれ? やばいな。1枚足りないかも………」


東京との3連戦翌日。今日は、東北レッドイーグルスとの3連戦だ。


昨日は、延長12回までもつれた試合。10時過ぎに終わった試合からちょうど12時間。今度は仙台駅に向かうため、宇都宮に来ていたのだが。


改札口を抜けようとするところになって、球団マネージャーがそわそわし出した。


「どうしたの?」


「え? いや、あの。選手用の指定席のチケットが1枚足りなくて………」


マジで? なにやってんのよ。今日は遠征だから、山吹姉がいない。若い男のマネージャーが2人だ。


ん? ていうか、昨日1軍に昇格した俺の分がないんだろうな。きっと。そんな気がしてならない。


まあ、仙台まで1時間ちょいだし、指定席じゃなくてもいいや。


「もう時間ないし、俺指定席じゃなくていいよ。自由席のチケット買ってくるから、お金ちょうだい」


「え? いいんですか?」


「いいから。ほら、君たちは早く先に行った選手達の所に行ってやってくれ。あいつらは野球しか出来ないんだから、乗り過ごす奴が出るぞ」


「分かりました。私達は先に行って来ます」



俺は1万円を受け取って切符売り場へと向かう。


全く。新球団は大変だぜ。




「えっと、この席でいいか。よっこしょっと! あー、疲れたなあ」


指定席チケットの買い直しも難しいくらい新幹線は混んでいて、チームとは離れた1番後方の車両にようやく空いた座席が見つかった。


球団マネージャーには、なるべく近くの車両にいて下さいと言われたけれど、こんだけ混んでいたら仕方ないな。


荷物を下ろし、座席に座り、少し背もたれを倒す。


結局寝たのは夜中の3時くらいになってしまい、6時間くらいしか寝られなかったので、かなり眠い。ただでさえ、プロデビュー戦だったから気を張っていたしな。


仙台駅に着いたら、すぐにバス移動して、球場入りだからなあ。移動中に少しでも寝て、体力を温存しておこう。






「終点、もりおかー、もりおかです」


おやおや? さてはて、盛岡とな?


ふわー、ちょっと寝てすっきりしたなあと思ったら、なんだか様子がおかしい。


おかしいなあ。仙台に向かっていたはずなんだけど、盛岡とは。


とりあえず、他の乗客がいないから、俺も降りるか。


荷物を持ってホームに降りると、肌寒い風が近くを吹き抜けた。


とりあえずスマホを取り出すと、球団マネージャーから20件くらい着信がきていた。


かけ直して見る。


「新井さん! 今、どこにいるんですか!? 早くスタジアム宮城に来て下さい!! 監督がカンカンですよ!!」


電話の向こうでは、マネージャーがだいぶ焦った様子でぎゃーぎゃーと俺を責め立てる。


少し休めたおかげでだいぶ楽になった俺は興奮したマネージャーをなだめて電話を切った。


調べて見たら、盛岡駅から仙台駅までは1時間ちょいくらいだし、あと15分後に出る新幹線に乗ればいいから、とりあえず腹減ったから、駅弁でも買ってこよう。

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