1軍に上がった新井さん1

「さあ、バッターは2番の佐藤。開幕からここまで打率は、320です。今日も前の打席で1安打。さあ、この打席はどうでしょうか」


終盤の7回にして、先制した東京スカイスターズファン。その応援団が陣取る、俄然勢いを増したレフトスタンド。


太鼓の振動は1塁側ベンチまで響き、数千の人の声が一体となって、グラウンドに響き渡る。


この雰囲気を覆したい。しかし、ベンチに座る今の俺には何も出来ない。高校時代に何度も味わったこの感覚がまた俺を締め付ける。


今の俺は、グラウンドで戦うチームメイトを見守ることしか出来ないのだ。




「セットポジションから第3球! 打った! これもいい当たり!!」


外角のストレートを見事な流し打ち。1、2塁間へ強烈なライナーが飛ぶ。






バシッ!!




はっ!? 浜出君!!



打球を目で追ったその先。ライト前に抜けたと思ったボールをセカンドの浜出君が横っ飛びでキャッチしていた。


しかも、倒れ込んだその体勢のまま、体をいっぱいに捻って2塁へと送球。


ランナーが飛び出していたのだ。



ショートの赤月が体をいっぱいに伸ばしながら送球をつかむ。


「………アウト!!」



うわあああっ!! すげえっ!!


浜出君のスーパープレーで、見事ダブルプレーが完成し、俺は思わずベンチから飛び出した。





「おい、浜出君すごいよ!」


「新井さん! 何するんすか!」


興奮した俺は、グラウンドに飛び出して帰ってきた浜出君を足から持ち上げて抱っこしてあげた。


彼はなぜだか恥ずかしがる。


「ほら、聞いてみろよこの大歓声を!」


「えっ!?」


「「ハマデ!! ハマデ!! ハマデ!!」」


プレーが終わった瞬間、ビクトリーズファンが総立ちになり、大拍手。ライトスタンドの応援団を中心にして、浜出コールが巻き起こる。


「おーい、浜ちゃんナイスプレー!!」


「いいぞ浜出ナイス!」


ショートの赤月や阿久津さんからもお褒めの言葉が飛ぶ。


「よっしゃ、行こう! 取り返すぞ! この回!」



「「よっしゃい!!」」


点を取られた瞬間は、もう終わったわ………。みたいな空気が流れていたのに。浜出君のスーパープレーでまだこの試合分からないぞ。打順もいいし。


「7回ウラ、北関東ビクトリーズの攻撃は、4番ショート、赤月」




「レフトへ上がった!! どうだ!? 行ったかー!!…………フェンスに当たった!! 打った赤月は2塁へ向かう!!」


打った瞬間、ベンチにいる全員が立ち上がって身を乗り出したが、打球は左中間フェンスの最上部に当たるめちゃめちゃ惜しい当たり。


2塁に滑り込んだ赤月が塁上で悔しい表情を見せる。


しかし、先頭打者がツーベースなんてこれ以上の仕事はない。


「5番レフト、シェパード」


気合いの入った様子のイタリア人が左打席に入る。


普段は初球からガンガン振り回すが、この打席はきっちりとボールを見極める。


「ボール!!」



「「よっしゃい!!」」


シェパードがフォアボールで出塁。ノーアウト1、2塁のビッグチャンス。


「6番ライト、桃白」


桃ちゃんが3塁コーチャーのサインを見て、左打席に入ると、バントの構えをした。

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