新井さん、1軍に上がる3

「北関東ビクトリーズファンの皆さま、お待たせ致しました! プロ野球、東日本リーグペナントレース、北関東ビクトリーズ対東京スカイスターズ3回戦が間もなく開始されます。解説には、昨年まで東北にいらっしゃいました。ビクトリーズの荻山監督とも長年一緒にプレーした経験もあります、大谷礼二さんをお迎えしております。………今、北関東ビクトリーズの選手が守備位置に散っていきます」


主審が合図を出すと、アナウンスに合わせてうちの選手達がグラウンドに散っていく。


今の俺のポジションは、ベンチを温めることもあるのだが、ライトを守る桃ちゃんとイニング間のキャッチボールをする大切なポジションも任されている。


「桃ちゃーん、行くよー!」


「ウイッス!!」


俺はライトのファールグラウンドから結構おもいっきり、桃ちゃんに向かってボールを投げる。


すると、彼はよそ見をしながらぴょいっと投げ返す。しかし、そのボールは俺が投げたものより数段レベルの違う返球だった。


まさに矢のような、いや鉄砲玉のようなバカ肩だ。


「桃ちゃん、今日も頼むぜ。1発かましてくれよ」


「はい。最後に新井さんが思い出代打で出れるくらいは点差つけときますよ」


なんだ、その言いぐさは!? 同期入団とはいえ、4つは俺が年上だぞ! プンプンプン!!


怒りに任せておもいっきり投げ返したが、軽くそれを上回る、レーザービームのような返球がきた。


俺は悔しくてプンスカしながら、まだ時間はあったが、そのまま彼をライトに放置してベンチに戻ってきてやった。





桃ちゃんとキャッチボールをして帰ってくるだけで、野球のスタジアム特有のムンムンとした熱気が体いっぱいに感じられた。


ベンチにいるのとはまた違う雰囲気。


もうスタジアムはほぼ満員に近いくらい埋まっているようで、もうみのりん達がどの辺りに座っているのかも分からない。


連敗中なのにも関わらず、これだけお客さんが来てくれれば、球団のお偉いさん達もとりあえずをほっと胸を撫で下ろしたことだろう。


しかし、それだけ沢山の人達がいると考えると、少しベンチから出るだけで緊張してしまう。


しかし、逆にこのたくさんのファンの前で目立ちたいという俺のお茶目な部分も顔を出す。


だから俺は、味方が守りについている時間ではあるが、何が起こってもいいように、グラブを着けたまま、ベンチの1番端に立って、戦況を見つめることにした。


2軍の監督みたいに、新井!声を出せ、声を!などとうるさくないしね。


大人しく、ドラ1の契約金1億円男の連城君を応援することにしよう。





「1回表、東京スカイスターズの攻撃は、1番ショート、平柳」


相手チームの1番打者。最近では度々日本代表にも選ばれているいい選手だ。


その選手が少し時間を掛けながら左バッターボックスの足場をならす。


そして、主審のプレイがかかり、1つ息を大きく吐いた連城君が大きく振りかぶり投球動作に入る。


入団前の触れ込み通り、迫力満点の本格派右腕。


高く上げた足を大きく踏み込むと、ダイナミックなオーバースローでボールを投げ込んだ。


「ストライーク!!」


低めいっぱいにストレートが決まる。


パッと電光掲示板を見ると、150キロと表示されていた。


いきなり自己MAXかよ。さすがはドラ1男だ。球の勢いが違う。



「5球目投げました。打ち上げた、これは内野フライ。ショートの赤月が掴んで3アウトチェンジ。北関東先発の連城、3者凡退。上々の立ち上がりです」

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