わりかし厳しそうな姉も捨てがたい。

「今はそんな話ではなく。みのり、どういうつもりなの? こんな時間に球場なんかに来て。年齢も年齢なんだから、ちゃんと就職しなさいといつも言っているでしょう!?」


「そ、それは………」


山吹姉は、おどおどする山吹妹をそう叱りつける。


普段は口数少なく、クールでマイペースなイメージのみのりんが、姉を前にすると、終始おどおどした様子で、なんだか姉を恐れている感じだった。


それに、仕事なら、小説家という立派な仕事をしているじゃないか。あまり売れていない様子だが。それでも女性小説家なんて素晴らしいじゃないですか。


「お姉様。よろしいですか?」


「なんですか、新井君。みのりとお隣さん同士で、仲が良いみたいですが、出来れば私達のことに口を挟まないで欲しいですね」


「まあ、そう言わずに。確かに売れていないかもしれないけど、小説家として頑張っているわけですし………」


俺がそう言った瞬間、山吹姉の表情がさらに強張った。


「はあ!? あなた何言って………」


「山吹さーん。球団本社からお電話ですー!!」


「は、はい。今行きます」


山吹姉は何かを言いかけたが、突然廊下の反対側から呼び出しをくらったようで、ふうっとため息を1つ吐いてそのままスタスタと歩いて行ってしまった。



「………ふう」


「………ふう」


俺とみのりんは山吹姉の遠ざかる後ろ姿を見ながらで胸を撫で下ろす。


それが全く同じタイミングで、むずかゆい感覚になりながら、互いに顔を見合わせながら俺達はしばらく笑い合っていた。




笑える状況ではないような気がしたが。







「あの………お姉ちゃんは、ちゃんと就職しろ就職しろってうるさいんだ。私は今年で26だから」


山吹姉が去っていった後、山吹妹みのりんは少し目線を反らしながら、そう呟いた。


そうか。みのりんもそんな年なのかと、俺は急に現実に戻された気がした。


確かになあ。26はもううかうかしてられないよな。


俺はバリバリアルバイターだったけど、26の時なんて。


「今日は一緒に帰ろうか。山吹さん」


「うん。それじゃあ、マイちゃんにも一応言ってくるね。まだイラストレーターのお仕事があるみたいだけど」


「うん、分かった。じゃあ、球場出たとこで待ってるね」


俺がそう告げると、26歳の売れない女性小説家はトコトコと離れていく。


俺はその姿を見ながら、山吹姉妹の間にある妙な違和感を感じていた。







北関東ビクトリーズ開幕6連敗!! 序盤4点リードも終盤に逆転許す!


北関東 301 000 001 5


横浜 000 010 24# 7


勝 牧野1勝 負 広本2敗 セーブ 飯田 2S


北関東

赤月1号2ラン(1回) シェパード2号ソロ(9回)

横浜

大村 1号3ラン(8回)


ビクトリーズが開幕6連敗。横浜は1ー4で迎えた7回、橋本のタイムリーで1点差に迫ると、8回には大村の3ランで逆転に成功した。7回から登板した牧野が嬉しいプロ初勝利。北関東先発の広本は8回120球の熱投も、2アウトから痛恨の1発を浴びた。




「新井くーん。1軍6連敗やて。きっついなあ」



2軍のスタジアム兼練習場施設。プロ野球も開幕から1週間を経過し、3連戦を2カード。つまり各チーム6試合を経過した。そして東日本リーグ。いや、プロ野球12球団で唯一うちだけ未だ未勝利。開幕6連敗を喫したのだ。


俺は2軍オープン戦のデッドボールの負傷でチームから離れて個別トレーニング中。


とは言っても、左手薬指の骨折で出来ることは限られているが、関西弁のトレーニングコーチが余計なことに色々工夫しやがるから、毎日毎日きついトレーニングを強いられている。


「新井くん。今日、練習終わったら飲み行こ。ほら、君んちの近くに鉄板焼の居酒屋出来たらしいやん」


「おっ、いいっすね。行きましょ、行きましょ」


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