柔らかそうな胸元してるなあ。
「店長に確認してくるんで、ちょっと待っててもらっていいですか?」
「オッケー。ここで待ってるね」
ポニテの女の子は少し困った表情をしながら、ほうきとちりとりを持ったまま、お店の中へと入っていく。
俺はちょっとでも好感度を上げていきたいですから、軽く右手を上げながら、爽やかな笑顔を振り撒いた。
昼前に野球選手が来るはずだから、来たら報告して! みたいな共有があったのだろう。
さらに俺は少しでもカッコつけようとその場で腕立て伏せをしながら待つことに。
しかし、地面に手を着いた時に、突き指してもんどりうっていた姿を、店長さんらしき女性が現れて、思いっきり見られた。
「あなたが新井さんね! 握手して、握手! え? 指が痛い? どうして?」
わけを聞いてゲラゲラ笑ったコーヒーショップの店長さんは、俺をテラス席の隅へと案内する。
わざわざ外から1番よく見えるテラス席だ。
「すぐにご用意しますので、もう少々お待ち下さいね。 ほら、さやかさんも行くよ」
「は、はい」
店長さんは俺をテラス席に座らせ、水を注いだグラスを置くと、ポニテの女の子と一緒に店の奥にあるキッチンの方へと消えて行った。
するとだ。
「なにあれ。ヤキューのカッコしてるヤツが座ってんだけど。チョーウケる」
隣の白ギャルにバカにされた。全然面識のない白ギャル。いっちょまえにピシッとしたブラウス姿だが、盛った茶色の髪の毛やケバケバのメイクがいかにもそれ。
そんなギャルがケラケラ笑いながら、カフェモカ的なものを啜っているのである。
そんな様子を見た他のお客さん達にも、思いっきし野球姿である俺の存在が露になっていく。
恥ずかしい。
「ねー、アンタ。何でヤキューのカッコしてんの?こんなランニングしながら店入って来てんの? チョー、ウケるんだけど」
隣にいるケバい化粧の白ギャルが面白がりながら、馴れ馴れしく話しかけてくる。
てめえも1人でテラス席に座ってるくせして、こっち見て笑ってんじゃねえよと、言い返しながら、冷たい水を飲んでなんとか心を落ち着ける。
「新井さーん、お待たせー。シェルバー特製サンドイッチセットでーす!」
ギャルを威嚇しながら待っていた俺の目の前に、店長さんとポニテの女の子が再び現れた。
白いお皿に乗った大きくて美味しそうなサンドイッチが俺の前に置かれた。
「出来たての、ハムレタスサンドとたまごサンドのセットですよ。さあ、召し上がれ」
召し上がれと言われても、そういやお金を持っていないことを告げると、店長さんはまたニコリと笑う。
「お代は球団の方から、キャンプが終わり次第、後払いで頂きますので、ご遠慮なく! だそうです」
あ、そうなんだ。
では遠慮なく、いただきまーす!
大きく口を開けてサンドイッチにかぶりつく。
んーめ! んーめ!
シェルバー特製サンドイッチとやら。なかなか美味いじゃないか。ふわふわのパンにみずみずしいシャキシャキターレス。
黒胡椒の効いたカリカリのベーコンもばつぐん。
これは美味いぞ。
俺は本能に任せて、差し出された大きめのサンドイッチを2つ、バクバクガツガツと食べ進め、あっという間に完食した。
他のテーブルへ接客に行っていたポニテの店員さんは空になった皿を見て驚いた表情を見せた。
「もう食べてしまったんですか!? なにしてるんですか!喉を詰まらせますよ!」
驚いたというよりは、どちらかというと叱るような口調を見せた。
ごめん、ごめん。こんなに美味しいと思わなくてと呟くと、ポニテの店員さんはどこか嬉しそうな顔をして、しゅんと大人しくなった。
「コーヒーを入れてくるんで待ってて下さい。食べてからまたすぐに走ったりしたら、体に悪いですからね!」
「やーい。怒られてやんの。チョー、ウケる」
隣のギャルめ。うるさいぞ。
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