2、3皿つまんだら帰ってくれないかしらね。
「トレイン? トレインスシ?」
サラダ軍艦を食べ終えた頃、アメリカおばちゃんはそう口にしながら、タッチパネルを指差すも、首を傾げていた。
横から見ていると、人差し指でピッピッピッピッ触りながらも、トップ画面とサイドメニューのところを行ったり来たりしている。
それを3回ほど繰り返した後に、アメリカンに話し掛けてきた。
「オニーサン、オニーサン」
そんな風に助けを求めてられてしまい、仕方なく俺は身を乗り出しながら、おばちゃんのタッチパネルに右手を伸ばす。
「ツナ! マグロ……ノ………アカミ……?」
はいはい。赤身ね。
俺はおばさんに言われるがまま、指差されるがままタッチパネルを操作し、決定ボタンを押した。
あと少しすれば、自分のナンバーが付いたトレインがカモンするよとなんとなく伝えると、おばさんはまるで子供ような笑顔をして、コンベアの先頭を見つめている。
「ピロリロ! ピロリロ! お待たせ致しました!」
「ワーオ! ベリーキュート!」
キュートかどうかは疑問だけど、おばちゃんはすっかり気に入ったトレインスシの皿をがしっと掴み、不慣れな割りばしを交差させながらマグロの寿司を掴み、さっきよりは少しは上手に頬張っていた。
その後はなんとなくやり方を覚えたようで、俺が教えた通りにピッピッピッピッ鳴らしながらタッチパネルを操作し、お寿司を注文していた。
俺はもうお呼びじゃないようなのだが、安心したような少し寂しいような。
何故だか少しそんな気持ちになりながら、俺はお茶をすすり、また赤身に手を伸ばした。
しかし、ふと冷静になりながら食べ進む度にどんどんと緊張感が増してくる。
よくよく考えなくても、俺は栃木の中心地であるこの宇都宮までわざわざ回転寿司を食べに来たわけではない。
プロ野球選手になるために来た。
その契約のハンコを押すために来たのだ。
そう考えてると、やけにマジで本当に胸の高鳴りが止まらない。
バイトの面接にいくとか。サラリーマンになって取引先に出向くみたいなのとはやはり違う。
だって、紙に判をするかしないかで、フリーターのままかプロ野球選手か。
運命が別れるわけだ。
まあ、どうしても俺が欲しいというのなら、契約金次第ではハンコを押してやってもいいけどね!
そんな風に強がっていないと、俺もアメリカおばちゃんのように割り箸でお寿司を掴むのが下手くそになり、イカが上手く飲み込めなくなる。
目の前を流れるお寿司のように期待と不安変わりばんこにやってくるのだ。
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