ひとすじの光

「翔君が待て、って言うんなら、あたしは待ってるよ。何年でも」


「そっか......うん、分かった。元気出せよな、咲。あと学校出て来いよ」


「うん、分かったよ」


「じゃな、どうせ学校で会うだろうけどな」


「翔君.....ありがとう......あたし本当はね、死のうと思ってたの…...生きてても辛いだけだし…..翔君の字、翔(とぶ)って読むでしょ?だから…...あたしも翔んじゃおうかな、って思ってたんだ…..」




そんなに思い詰めてたのかよ。

俺が来るのが遅かったら、咲はもしかしたらもう…...。

この世にいなかったかも知れなかったのか?




「バッカだなぁ。こんなろくでもない奴の為に、死ぬ事なんか、ねぇだろ?お前を裏切った男だぜ?」


「…...それでもあたしには翔君しか、いないの。色んな男の人を見て来て、それで出た答えだから」


「そっか。咲も成長したんだな。俺も負けてられねぇかな?」


「うん。負けたら一生笑いものだね」



あの日以来封印してしまった咲の笑顔が、戻って来た。

咲…...。

やっと笑ったな。



やっぱり咲は笑ってる方が可愛いよ。

その笑顔を、奪ったのは俺だけどな。



皮肉なもんだぜ。

咲を笑わせられるのも、俺だなんてよ。




「咲、やっぱりお前は笑ってる方が可愛いよ」


「えっ?あたし笑ってた?あの日からずっと笑う事なんて、無かったのに」



無自覚で笑ったのか…...。

そんなにお前には俺が必要なのかよ。

ひとりじゃ笑えない程にかよ。



「咲、もうこんな夜まで働くな。俺の事、待ってるんだろ?」


「あー…...やっぱり。翔君だったら絶対にそう言うと思ってたよ。でも、言われる日は来ないと思ってたけどね」


「何で俺ならそう言うと思ったんだ?だって咲がここで働いてるのは、知ってたんだぜ?」


「翔君、自覚ないんだね?本当はすっごい焼きもち焼きで、独占欲が強いのに」


「あぁ?俺がか?そうだっけ?そんなに執着してたかなぁ?」


「してたよ。だから翔君があたしの傍にいた時は、誰も寄り付かなかったもん。でもいなくなった途端にハエみたいに集(たか)って来てたよ」


「ハエか。そうかも知れねぇわな。咲は俺にとっては、本当に特別な女だったからな」


「特別かぁ…...翔君もあたしにとっては本当に誰も代わりになれない程、特別な存在だったよ…...今でもそれは変わらないよ」


「そっか…...俺の事まだそんな風に想ってくれてるんだな、咲は。あの頃と何にも変わってねぇんだな…...変わっちまったのは、俺の方だよな」


「でも、今日来てくれてあたし本当に嬉しかったよ。翔君に会えたから、あたしまだ生きてても、いいのかなって、翔君の事待っててもいいのかな、って…....」


「生きて待ってろよな、俺の事。出直してくるからよ、今度こそ本当に咲だけを幸せに出来る自信がついたら、その時は迎えに来るからな」


「うん、あたし待ってるよ。もし…...また、死にたくなったら「そん時は電話して来い!分かったな?」」


「え?う、うん。分かった…...その時は電話するよ...…何だか懐かしいな、翔君に怒られるの」



咲はそう言って、ふんわりと笑った。




「咲.....本当に辛い思いさせてたんだな、俺は。お前から一番大事な笑顔を奪う程によ......」


「でも、翔君今日来てくれたし、あたしに待ってろって、そう言ってくれたから、だから、あたし待ってるからね」




今度は本当に咲はにっこり笑った。

翔と付き合ってた時の笑顔そのままに。




封印してしまった笑顔を、翔の一言で取り戻した。

そんなに俺が必要か?咲?



俺だって、あの時の女は本当は遊びだったんだぜ。

咲に見つからなけりゃな。



だからあの日は来るなって、言ったのにお前来ちゃうんだもんよ。

誤魔化せねぇよな.....。


何やってるんだろな、俺は。

失くして初めて気付くなんてよ。




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