AI
シキ
第一話 アンドロイド
僕は恋をしたことがなかった。それは多分、運命とかそういうのに導かれていないからだと思っている。だって今まさに…
「す、好きです!付き合ってください!」
「---------。」
僕の運命の人がいる。
一年前
まだ暑さが残り、涼しくなる気配のない日。僕は目が覚めた。
そこはあまりにも殺風景で、家具も殆ど無い真っ白な部屋だった。どうして自分がここにいるのかを思い出そうとしても何も覚えてない。
「目が覚めたか?」
声の元に目をやると紺の綱着を着た男が気怠そうに僕を見ていた。
なんだか僕まで怠くなる。
「お前、スラムから逃げてきたのか?大部ボロボロだったぞ。」
スラム…?逃げる…?男の言ってる言葉は分かるがどうしてそうなったのか、記憶がはっきりしない。まるで僕が僕でないような、そんな感覚だけが残った。
「すみません、覚えてないです。」
僕は男に向かって気だるそうに答えた。起きたばかりなのもあって体調がまだ良くないのかもしれない。
「そうか、なんか強い衝撃でも与えられたのかな。」
男はそう言って、僕に近づいて来た。それを静かに見ていると男の視線は僕にぶつかり何かを察したようにはっとした。
「あぁ…覚えてないって記憶喪失か…?」
そうなのだろうか?少し前のことを思い出そうとしても記憶が無い。言葉は覚えていても思い出が無い。これが記憶喪失ってことなのだろう。
「みたいです。」
男の視線に合わせたまま頷きながら僕は答えた。男は少し考えるような素振りをして僕に言った。
「それは、辛いな…。もしお前がよければここで働いて衣食住は保証してやってもいいぞ。」
男の提案は記憶が無い僕にとってはとても有難いであろう提案だった。しかし、男が何でこんな僕に親切にするのか疑問に思った。少し考えてみたが相手の考えなど分かるはずもなく、僕は男に聞いてみることにした。
「嬉しい申し出ですが、貴方は何で僕に親切にしてくれるのですか?」
男は顔色変えずに答えた。
「別に。俺はお前を助けたから最後まで面倒見ようと思っただけだよ。捨て犬と変わらない。拾ったら拾った奴が面倒を見るもんだろ。」
僕は捨て犬と一緒なのかと不快に思ったが、それを顔に出さないように僕は答えた。
「…よろしくお願いします。」
「はい、よろしくよ。俺はエンジニアをしている
これが優人さんと僕の出会い、僕が記憶する最初の記憶。それから優人さんの仕事を手伝いながら色々なことを教わった。
仕事の内容は勿論、世間での常識、マナー、一般教養。
優人さんの仕事は自律型生活補助人造人間、通称アンドロイドの修理だった。
この職に就くのには多数の資格、試験を通らなければならず、今の僕には業務上の手伝いをすることは違法になるそうだ。
なので僕は優人さんの生活面、主に家事炊事を行いながら資格取得の勉強を見てもらっている。幸い僕は頭の出来は悪くないようで、必要な知識、法律、技術を身に着けていった。優人さんが何故ここまでよくしてくれるのかは謎だけれども、今は記憶も無いままここを出て行くことは考えない方がいいのかもしれない。そもそもそんな生活能力はないのだけれど。
そうこうしているうちに一年過ぎた。
「優人さん。この法律のことなんですけど。」
僕は作業場で煙草を吸っている優人さんに声を掛けた。
「どれ?」
仕事の休憩中にくつろいでいたところだからというわけではないが、この男は相変わらず気怠そうに応える。
「人造人間法第4条のところです。感情搭載の。」
優人さんは煙草を灰皿に挟み「ああ…。」と言った。
「なにが分かんないの?」
「搭載禁止のはずの感情なのに、学習機能として備わってますよね?最近知りましたけど。」
優人さんは頭を掻きながら、面倒な質問とでも言いたげな表情をして、こちらに来いとでも言うように手招きをしていた。
優人さんの元へ着くと今丁度修理しているアンドロイドの内部データを表示している画面が映っていた。
「これ、お前が言ってる学習プログラムな。」
「そして。」優人さんはそう言って画面を切り替えて表示させた。
「これが感情搭載型学習プログラムな。」
画面を見比べさせてもらったが特に違いがないように見えた。
「正解を言うと違いはない。ぶっちゃければ、今そこらへんを歩いてるアンドロイドにも感情は備わっている。」
「それって…。」
言葉が続かなかった。一年間勉強してきたが、アンドロイドはあくまで物として見てきた。世間もそうだろう。いくら人に似せようがそこにはあくまで物、よくてペットのような存在。だが、これらに感情があるとすると見方が変わってきてしまう。
「深刻そうな顔すんな。あくまで備わってるだけで実際は機能してない。ただ学習プログラムがなきゃこれらはただのロボットと変わらないからな。かといって感情が必要かと言われれば必要ない。都合が悪いでもいいけど。だから感情の部分だけを別の意識に組み替えた。つーかそれが限界。昔から言うだろ?臭い物には蓋をしろって。」
「それなら、普通の学習プログラムを使えばよかったのでは?」
僕は当然の疑問を優人さんにぶつけた。
「無理だった。感情搭載型学習プログラムの非搭載型も開発はされるにはされたが機能しなかった。九官鳥と同じで覚えて物をそのまま吐き出すのが限界。感情搭載型は人間のように応用もこなす。性能が段違いなんだよ。」
「じゃあ感情を別の意識に組み替えたっていうのは?」
優人さんは挟んでいた煙草を一吸してから言った。
「人間の真似をしているって思い込ませている。所有者が喜んでいたら同じように喜び、悲しんでいたら悲しむ。所有者側も共感してくれる物でやすらぎ覚え、アンドロイドは所有者の感情と同じ感情を抱いていると信じている。まあ、もっと複雑な組み替えもあるにはあるが、簡単に言うとこんな感じだな。」
「でもそれは結局アンドロイドが感情を持ちながら抑制されているのと変わらないのでは?」
「だから言ったろ、もっと複雑な組み替えもあるって。感情を備えているが使われてはいないって覚えておけばいいんだよ。トイレ行ってくる。」
そう言って強引に質問を切り上げられた。
その場に取り残された僕は、現在修理中のアンドロイドを見て哀れなような、不気味なような不思議な感情を抱いた。
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