第16話 結果

「勇者」

 

 塔を降りていけば、魔法使いに声をかけられた。


「お師匠様は?」

「……」

「勇者?」


 魔法使いの声が素通りしてしまう。


 ――彼女は、君の為なら、世界を壊す。

 ――君が望んで叶わないことなんてない。

 ――試しに望んでごらん? 結果は後から付いてくる。


 錬金術師の声が幾度も頭の中で繰り返される。


「なんで……」


 世界を滅ぼすことが何故勇者の為になるのか。

 何故、『魔女』は、


「勇者?」


 心配げに顔を覗き込んでくる魔法使いに、勇者は『大丈夫だ』と言いかけて、

 

 ――君が望んで叶わないことは、


 魔が差した。


「魔法使い、剣士って生きてるよな?」


 もし、本当に願いが叶うなら、死んだ筈の剣士に会いたい。

 「逃げろ」と言ってくれて、非業の死を遂げた友に。

 会って話したい。


「勇者、何言ってるの?」


 怪訝な顔をした魔法使いに、勇者は苦笑いを浮かべた。


「だよな、悪い。変なこと言って……」

「剣士なら隊員の中にいるじゃない」

「……え?」


 時が止まった。

 勇者の変化に、魔法使いは尚も話を続けた。


「一緒に魔女を倒そうって、怪我も治っていないのに、無理矢理――」

「その言い草どうなんだよ」


 人懐っこそうに笑いながら、現れたのは、


「けん、し……」

「どうだ? 錬金術師と話せたか?」

「私じゃなくて、勇者に聞いて。お師匠様は勇者と何か話してたから」

「そうなのか?」


 剣士はきょとんとしてから、勇者に笑いかけた。


「どうだった、勇者。何か収穫があったか?」

「……で」

「?」

「なんで、剣士が、お前が……」

「お前まで『なんで』とか酷くねえか」


 若干傷付いた様子でありながら、剣士は頼もしい言葉をかけてくれる。


「俺がいた方が安心だろ」

「……」


 剣士が生きている。生きて、話しかけてくれる。

 嬉しい筈だ。望んだ筈だ。


 なのに、


「勇者?」


 ゾッとした。

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