1-8

 彼女はこちらへと階段を上ってきた。さらりとショートヘアが揺れて、揺れたところが日光によってきらきらと照らされている。

「何撮ってたの?」

 そう問われて、若干の面倒臭さを覚えた。今日はもう他人と会話をして、じゅうぶんに疲れている。

「景色」

 少しぶっきらぼうな喋り方になってしまったが、彼女は気にしていない様子だった。僕と同じ高さまでやってきた彼女は、スカートをひらりとさせながら、フィルムに滲む空を覗き込んで呟いた。

「透明な写真を撮るねえ」

「透明?」

 勝手に写真を見られたことにむっとしたけれど、それよりも彼女の言葉が気になった。

「そう、透明」

 何が言いたいのかがわからず、言葉に詰まる。

「それ、学校に持ってきてるのバレたくなかったら、明日からは一緒にお昼食べてよね」

「は?」

「それ言いにきただけだから。また明日」

 終始意味不明な彼女の言動に戸惑う僕をそのままにして、彼女はすとん、すとんとリズムよく階段を降りていく。



 透明って、なんだ?なんで彼女はここに居た?あと強迫みたいなのなに?

 すとん、すとん。足音が遠ざかって、彼女の姿が見えなくなっても、僕はしばらくその場に立ったまま考え続けた。


 吹奏楽部員が『ふるさと』を演奏していたり、野球部員が元気よく掛け声を出していたり、だんだんと、また音がうるさくなっていくのを感じた。再び見上げた四角い空には、飛行機雲がぽつりと涙を流したみたいにそこにあった。

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