透明ドロップ

月路ゆづる

プロローグ

 夜の終わりと朝の始まり。ゆるやかに流れる川が、控えめにそれを反射している。川辺のベンチに腰を掛けている僕は、そっと息を潜めた。さらさらともざあざあともつかない水音。川沿いに並んだ蒲公英の綿毛が、冷えた風に連れられていく。舞い上がった綿毛のひとつが、僕の頬をひと撫でして消えた。そのまま視線を歩道へと移すと、遠くでジョギングをしている人が一人だけ見えた。僕はもう少しだけ、息を潜め続けることにした。


 辺りが暗さを増す。空を見上げると、雲が重なり合っていた。首から下げているチェキカメラを両手で軽く握り、胸元まで持ち上げる。風が止み、水音が穏やかになった瞬間を、僕は逃さなかった。チェキカメラをぐっと顔に引き寄せ、ファインダーを覗く。



 そして───世界と僕を切り離した。

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