第24話 仲直り
俺が悶々と悩んでいると……
「おいその二択で悩むとかお前はどれだけ馬鹿なんだ?」
「誠至……!」
「男湯入るとか天地がひっくり返ってもあり得ないからな? お前は殺人鬼になりたいのか?」
「さ、殺人? だって女姿になったら犯され――」
「はあ……んなの俺が黙って許すわけねぇだろ……」
お前本当に馬鹿だな、と心底呆れた眼差しを送ってくる誠至。
いやいや、そう言うけどな? お前がそれ言っても微塵も説得力ないから!!
「信じられるか! お前だって俺に……」
「なんだよ?」
「こっ、こっ、告白したくせに!!」
「はあ?」
俺が紡いだ言葉にさも怪訝そうな顔をする誠至。
クッソなんかニワトリが喉詰まらせたみたいに吃ってしまった……。そんな俺に対し誠至はどこまでもクールでなんだかムカつく。
「それが何の関係があるんだよ?」
「なっ、何ってそれは……」
「……だから、好きな奴が剥かれるところを黙って見てる男がいるわけないだろって話だ」
「……!」
ああ、確かに。……なんて納得できるか! 何また公然の場で堂々と好きとか言ってんだよ!!
誠至お前そんなキャラだったか!? そういうのは礎先輩担当だろ!!
……と、噂をすればなんとやら。
「はいはい、お前ら寄ってたかって女の子を困らせるんじゃないぞ」
突然ぐいっと肩を引き寄せられ誰かの胸元に飛び込む形になった。
上を向くと遥か高い位置に礎先輩の顔があって……
おお! マジか!! あの駄犬が……手がつけられない天然破壊兵器が……今は大人に見える!!!
「千秋? 大丈夫だったか?」
「は、はい……」
「よしよし、怖かったな? 大の男に囲まれて」
ワンコの成長に驚いていると親が子にするように頭をポンポンとしてくる。
うん、大の男って、一番大きいのは先輩ですけどね。
「……チッ」
「ふん」
なんて、誠至と倭人の不服そうな声がする。
おおお、先輩すげえ。さすが年長者なだけある。あの二人を黙らせるとは……俺も見習いたい。
「ったく……とりあえずソレ着替えてこいよ。男湯入るよりはマシだろ」
諦めたような表情の誠至に言われ、それもそうだと大人しく頷く。
カツラのまま温泉入るのは抵抗あるしね。蒸れそう。
と、いうことで。部屋に戻って着替えることにした。男達は先に行くみたいだ。
にしても、あの3人で温泉入って何話すんだろ。
……ん? 3人?
なんか1人足りないような……と思いつつも先程出たばかりの部屋の扉を開ける。
「……ッ!?」
するとそこにいたのは、ウサギのように愛くるしい琳門チャン。
最近は会話どころか目すらまともに合わせてもらえず、すれ違いってレベルじゃないほどギクシャクしている可愛子ちゃんだ。
ってミスったーーー!!!
そうだよ、さっきから琳門の姿が見えなかったじゃん! なるほどね、まだ部屋にいたのね!
何してたのかな〜? んん〜荷解き〜??
なんてことはどうでもいい。
ただでさえ避けられてるのに、このまま密室に二人きりとか気まず過ぎて死ぬ!!
「ご、ごめんっ! 今すぐ出るから、」
「ッ、千秋!!」
これ以上琳門の視界に入らないようにと、速やかに部屋を出ようとすれば、いつの間に接近していたのかパシリと腕を掴まれた。
んえ!? 何故に!?
てか肌!! 接触してるけどいいの!? 拒絶反応出ない!? 大丈夫!!?
「り、琳門……? あの、肌……」
「何も逃げなくていいでしょ……僕は……」
琳門を気遣おうとしたら、悲しそうに目を伏せられる。
に、逃げ!? いつ誰が誰から!?
ちょっと待て、琳門何か勘違いしてない……?
「り、琳門? どうした?」
「……だって千秋が僕の顔見た途端逃げるから」
「いやいや、逃げてないよ。琳門が俺と同じ空気を吸うのは嫌かなって」
「……え?」
俺の渾身の自虐に素っ頓狂な声を上げる琳門。
うん、自分で言ってて泣きそうだったから即肯定の意が返ってこなくて良かった。もれなく千秋クンが還らぬ人となるところだった。
にしても、さっきから何故か琳門との会話がちぐはぐしている気がする。
……どうしよう、ちょっとした期待が湧いてきちゃうんだけど。
もしかして琳門、俺のこと嫌いになった訳じゃない……?
「琳門、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」
「……何?」
「あ、のさ……最近俺達まともな会話してなかったじゃない? 目もすぐに逸らしちゃうし……何か理由が、」
「……ッ」
すると、そこで琳門は隕石が落ちた時のような顔をした。
―――え? わかりにくい?
そうだなぁ……『やべえ!! マズい事が起きた!!』みたいな?
ってそれどういう意味だ!!? え、まさか本当に嫌いだった? 『コイツわざわざ言わせんじゃねえよ』的な??
そういや同じようなことが礎先輩との会話でもあった気がするけど……
いやいや、まさか、そんな……琳門に限って、ねえ……?
「琳門!! お願いだから何か言って!? 俺のこと嫌いになったわけじゃないよね!? ね!?」
一気に不安になって琳門に詰め寄る。
ってこれじゃあ何処ぞのメンヘラみたいじゃん!? 圧!! 圧が凄いよ!!
こんな風に言われたら……
「っ嫌いになんか、なるわけ……」
「嘘だ!! 同情心はいらないからね!!」
予想通り否定しようとした琳門に、間髪入れずに食ってかかる。
うん、謎だね。自分から聞いたくせに相手の回答にイチャモン付けるとか。
やばい、自分で言っときながらめんどくさすぎる。こんなんいい加減愛想尽かされるわ。
そう絶望的な気持ちのまま俯いていると……、
「千秋を避けたのは……どうすればいいかわからなかったからだッ」
「……え、?」
急に聞こえた大声に、つい間の抜けた声が出る。
バッ! と下げていた頭を持ち上げると、そこには顔を真っ赤にした琳門の姿が。
うわ……林檎みたい……美味しそう……。
いやいや、待て待て。今絶対場違いなこと考えた。
久しぶりのスルーしがたい光景に思わず変態お茶目な千秋クンがひょっこり顔を出してしまった。
カムバック冷静千秋クン!!
「そりゃあ、千秋の正体聞かされて、思うところはあったけど……」
「うん……」
「でも確かに千秋の身長の割には華奢なとことか、変な色気とか、不思議に思ってて」
「……」
「だから思わず納得しちゃってさ」
「……じゃあ、正体隠してたこと怒ってはないの?」
恐る恐る聞いてみると、琳門はとっても穏やかな顔で笑った。
う、わ……花が咲いたみたい、とはこのことだろう。琳門、こんな顔できたんだ。
「怒ってはないよ。隠してたのは理由があったんだろうし。……まあそれを千秋じゃなく蘇芳倭人の口から聞かされたのは癪だったけど」
隠してた理由……うん、10割琳門に嫌われたくないずっとハスハスしてたいっていう不純な動機だけどね。
まあそんなこと知る由もない琳門は何か思い出すように笑顔をしまって、口を窄める。
か、かわ……! その顔も見たことない!! あれ、今って襲っていいんだっけ!?
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