異世界なんて銃さえあれば余裕だと思ってました。

重い思いを抱くおもち

第1話 トラック、ビンタ、異世界

 赤。立ち止まった瞬間北風が私を襲う。こんなに寒いのならもう一枚羽織ってくればよかった。イヤホンから流れてくるお気に入りの音楽。周囲の雑音に邪魔されないように音量を上げる。歩行者信号が青に変わった。つまり私が渡ってもよいということだ。

 当たり前の日常。油断、彼女は左右確認を怠った。

 それが生死を分けた。


 ドン!!!


 彼女は猛スピードで迫りくるトラックに気づく前にはね飛んだ。


 うーん、心地よい。心地よい風が顔に当たる。まだ寝ていたいから、瞼を開けない。

 このままあと三十分はいた


 バチン!


「うわぁあぁぁぁ!?」

 ビンタ!?私ビンタされた!?

「やっと起きたか・・・はぁ・・・」

 そう呟いたのは目の前にいるキリスト教のシスターみたいな女。

「誰だお前」

 とっさにそう言った。淑女らしからぬ発言である。

「私はこの世界とあの世の橋渡し役、要は女神です」

「ほう」

「あなた、久松みかは午前8時34分23秒、死亡しました」

「それってまじ?」

「ええ」

 どうも私は死んだらしい。不思議なことに焦りを感じられない。

「さて、あなたにはこれから私の世界、あなたにとっての異世界に行ってもらいます」

「え、私死んだら極楽浄土に行けるって聞いてるんですけど」

「まぁ、行くこともできますが」

「じゃあ私極楽浄土に行きます」

 そう言うと女神はあからさまに顔をしかめて

「そんなこと私がさせません」

 はぁーなんだそれ。私は死んだらばあさんと爺さんと一緒に極楽浄土で暮らすってのが四歳のころからの夢なんだぞ。長年の夢を邪魔されてたまるか。

「私絶対極楽浄土に行きたいんですけど」

「嫌です。こんな若い魂異世界で活用したいです」

 なんだこいつ。私の思ってた女神と違う。もっとこう、女神って私たち下界の者にやさしい存在だと思ってたが違うようだ。

「あなたみたいに、穢れてなく若い魂なんていまや貴重品!こんな幸運一カ月に一度あるかどうかってレベルなんです。」

「つまり?」

「何が何でも異世界に送りたい」

やっぱりこいつおかしい。

 ここで私はふと浮かんだ疑問を投げかけてみる。

「てか異世界ってそんなにピンチなの?」

「ええ」

「魔王とかに攻められてるとか?」

 魔王から世界を救ってほしいとかかな?人助けならなぁ・・・

「いえ。魔王は倒され魔王残党勢力がゲリラ戦をしていますがこれらは大した問題ではありません。問題は旧魔王領を巡って世界が二つに割れたことです。いわば異世界は冷戦状態です。この状態を脱するために、あなたのような転生者を我々聖キストル教を国教としているキストル王国に転生させ、異世界統一を目指しています」

 要は天界が冷戦に介入してるんだな。ひでぇ話だ。

「で、私もそのキストル王国に転生させて敵国を制圧してほしいと?」

「ええ」

「お断りします」

 人殺しの為に異世界転生だなんてゴメンだわ。

「・・・今なんて?」

「だから、断ります!なんで私が戦争に行かなきゃいけないんです?」

「い、いまならチートスキルでもなんでもつけますよ!?異世界でイケメン引っ掛けて冒険とか余裕でできますよ!」

「私女が好きなんですよね」

「クソが!」

 だんだんこの女神、繕ってきた性格が崩れてきてるな。

「ええぃ、もういいわ!あんたに錬金術の魔術を憑け、異世界への転生者とする!」

「え!?」

「開け神聖なる門よ!彼女をいざなえ!!!」

 女神が怒鳴った瞬間、目の前に大きな黄色の半透明な門が現れた。

「え!?ちょま」

 困惑する私と対照的に女神はとてもいい笑顔で。

「いってらしゃい」




 は!?ここは?

 私が目を覚ましたのは木製の小屋。隅に蜘蛛の巣が張ってあるようなボロイ小屋。身に着けてるのは最低限のTシャツとスカート。そして腰に差してある刃渡り三十センチはあるであろう剣の重さが、ここが異世界なのだと語りかけた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る