第75話「子爵の指揮能力」

 督戦隊のおかげか進軍スピードは落ちるどころが勢いづいていた。損耗も憂慮するレベルではないようで、あがってくる報告も先鋒部隊の死傷者のみ。アンデット化する者も出ているようだが、敵もろとも焼き払うことで解決。

 子爵は反発が出るようなら従軍司祭による浄化も視野に入れ、連隊に前進の指示を出す。


(従軍司祭を酷使すれば回復する術を失ってしまう。そうなれば時間をかけて育てた将兵にも被害が出る……ここは冷徹に物事を判断せねばーーしかし)


 ここで子爵の頭に疑問が浮かんだ。

 報告にあがってきている情報は人型のアンデット、スケルトンとの戦闘報告のみ。それらは組織立って動いているようにも感じられ、錆びた防具を装備している個体も確認できるとーー


「伝令!! 敵の動きは軽く当たるように波状攻撃するばかり、目的は不明」


 その報告を聞き子爵は怒り狂った。


「馬鹿者がっ!! 敵の目的は感染による切り崩し、こちらの兵をアンデット化させることだっ!!」


 子爵は「相手には知恵の回る個体、ユニークモンスターか上位存在がいる」と全軍に警鐘を鳴らす。すぐさまに副官、周辺に配置されている指揮官に伝令を飛ばす準備をさせた。


(ここは大戦時の書物にも記されていた古戦場。もしや力ある個体が彷徨っているのではあるまいな……もしそうであれば従軍司祭は温存さねば不利だ、すでに巣穴の中の可能性もある)


 子爵は従軍司祭・私兵・護衛を陣中央に集結させ、進軍速度を緩めた。そして従軍司祭に指示を出す「消耗しない範囲で周囲を浄化、交代しつつ断続的に行うように」と。


(万が一にでも基幹要員を失えば包囲殲滅される、ここは慎重に進むべきか……)


 その指示以降、会敵頻度は劇的に下がった。おそらく浄化による影響だろう、力なきアンデットは次々と灰となり死傷者も激減。士気の向上にも寄与し、手の余った私兵を治療に回すこともできた。


(ふむ、想定以上に損害もなく切り抜けたな。我ながら恐ろしい才能よ……進軍速度が犠牲になったが無駄に危険を冒すなど愚の骨頂、ダンジョンに時間を与えてしまうことになったが1日そこらで変わるものか)


 油断なく進めたが故に、子爵はダンジョンがあると思われる場所までは辿り着けなかった。

 だがそれも野営に適した場所を発見したことで、これも天運かと納得。ダンジョンから離れすぎず、見晴らしのいい平地を確保することができた。


(ここならば遮蔽物もなく奇襲の心配もないだろう。多少魔素が濃い気もするが、即応できるように警戒網を敷けば問題あるまい。地面も適度に軟らかく、野営しても疲れが取れそうなくらいだ。実に運がいい……)

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