第73話「変化」

 まずは地の利を最大限に活用すること。そして相手にはない前世の知識の活用。さらに決してまともに相手をせず、ゲリラ的に対処して消耗させる。

 だが相手は大所帯、多少のことでは揺るぎはしないだろう。兵科も揃っていれば対応力も桁違いのはずだ、生半可なことでは時間稼ぎにもならない。


(だからまずは士気を落とす……僕のやるべきことは、とにかく相手にストレスを貯めさせること)


 いかに不快にさせ、いかに不安を蓄積させ、まともな判断をできないようにするか。

 不思議なもので、そこに焦点を絞れば色々と引っかかる記憶が出てくる。前世での紛争地域での出来事、カルト宗教の暴挙、旧日本軍の自爆特攻、同時多発テロなどなど……それらのメソッドを今世の魔術・魔法の知識と掛け合わせれば効果はいかほどか。

 合わせるものにもよるだろうが、危険度が増すに違いない。


(そしてスケルトン、ゴーレムが実行する作戦にうまく便乗できれば……)


 勝つことまでは難しくとも、上手くいけば撤退させるところまでは持っていけるだろう。

 だがそれも上手くいけばの話、机上の空論で大成功をおさめることなど誰にでもできる。問題はそれを実現できるか、失敗があってもリカバーすることができるか、その都度成長することできるかという点。


(こう見えてもシュミレーターゲームや戦略ゲームは得意だったんだ。前世の知識と文化がどこまで通用するか試させてもらうぞ)


 ふと僕はダンジョンのメニューがこのような形式でよかったと思った。前世でゲームをよくやっていたからか、こんなデバイスじみたものを操作していると現実感が薄れていくのだ。手に残る感触もなく、前線にも出ずに戦うことができる。いかにパターンを見つけ、定石を確立し、物事をハックするか。逃避するように渦巻く思考回路に身を任せ、僕はメニューをいじっていく。


(……なんか嫌だな。こんな状況なのに、楽しいと感じている)


 その感情の根源はわからない。

 策謀による暗い喜びか、事象を操作するという万能感か、死を身近に感じることで得た生の実感か……少なくともまともな感情ではないのだろう。だけどこの状況下で、まともなままで居るのも狂気じみている。


(それとも既に、200年の間に僕は変わってしまったんだろうか……)


 妙に冷えたまま俯瞰するような視点。感情とは独立したように凪いでおり、妙に心地がいい。


(まるで別人になったような、そんな感じだ。これならもっと早くこうなって欲しかった、そうしたら魔族としてーーいや、それは無理か……)

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