第72話「流れ」

 そこから僕はスケルトンとゴーレムの説明を受け、あらためて異世界が不条理で平等なことを痛感した。ここも前世と変わらぬーー魔素の有無だけでそう大差のない世界だということを。だが今回はそれに救われることになるが、何もかもが上手くいく訳じゃない。その幸運や条件もこの世界に生きるものたち全てに適応されるのだから。


「相手の質にもよりますが、私達にできることは遅滞戦闘が関の山でしょう」

「いや、時間が稼げるのは助かる」

(お任せください)


 自らの胸を叩き、重い音を響かせるゴーレム。全くもって頼もしいが、その衝撃で核となっている魔石が壊れたりしないのだろうか。それにスケルトンも脳みそが無いくせに頭が切れる。経験や知識はどこに積み重なっているのだろうか。

 少なからず希望がある。それだけで今ある絶望が課題となり、対処すべき壁となった。先ほどまでは世界全てが自分を殺しにきていると思っていたのに、鼻先に人参が見えただけでこれだ。存外、自分は単純らしい。


「……マスター、ようやく落ち着きましたな」


 そう言われて自分が笑みを浮かべていることに気づく。思考も狭くなっていたようで、物事を多角的に捉えようとするし、俯瞰するような頭の回転も知覚できるほどだ。


「ああ」


 ちっぽけながら素直に感謝もできない。妙な意地、プライド、反射的な行動。なにか座りが悪い。それを自覚できてしまう精神状態なだけに余計に感じることができる。

 思春期でもあるまいにどうしたものか。


「あまり時間もあまりないことですし、私とゴーレムは行きます」

「……ああ」

(お任せください)

「では、後のことは頼みましたぞ」

(最善を尽くします)


 そう言って立ち上がった彼らを、僕は見送ることしかできなかった。自分のために命を賭けてくれるのに、伝えたい気持ちはあるのに、それを言葉にすることはできなかった。希薄な関係しか築いてこなかったツケだろうか、こんな時にどう言葉をかけたらいいのか分からない。どう行動したらいいのか分からない。

 そして念話の繋がりも消え、とうとう伝える手段も失った。


(作戦を気取られる危険性があるから、か……)


 だが僕の胸中は作戦成功率を上げるうんぬんよりも、念話を切られる感覚の寂しさに驚いた。

 感じていた確かな繋がりを相手側から切られる。この感触は想像以上にくるものがあった。特に心細い状況である今、それは一際強く感じてしまう。だがそんな気持ちに流されるわけにはいかない、あいつらの頑張りを無駄にしないためにも止まることはできない。


(……何が起こるかわかない、何事も想定通りに進む訳じゃない。でもそれらに備えつつ、相手を崩す先手も打ち、有利に流れるように画策し、不意の事態にも即応する。それが僕の仕事だ)

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