教会の探索 ステータス

礼拝堂の側面にあった扉をくぐると、そこには四角く小さなホールがあり、それぞれの面にシンプルな扉が一枚あった。


石材むき出しの壁や、装飾のない扉からすると、手抜きでなければ教会関係者以外、立ち入り禁止という設定の場所なのだろうか。


左手の扉を開けて中に入る。


部屋には長椅子とテーブルがあり、テーブルの上には菓子や果物を入れておく籠が置かれていた。



「休憩室かな?」



テーブル上の籠を覗き込むが、残念ながら籠に入っていたのは、腐った何かの残骸のみ。


まあ放置状態からして、食べられる物は無いよな。



部屋の隅に置かれた蓋つきの壺に、何か入っていないかと開けてみたが、臭いが拡散がされなかったのか、開けると鼻を衝く臭いがして目に沁みた。



「壺の中には…腐った何か。は~あ、泣きたくなるぜ」



とりあえず、スタンドポールの底面を蹴り折って、無くした武器(棒)の代わりにする。


室内にはもう一つ扉があったが、炊事場のようだったので、無視をする。



入ってきた扉を出て、更に左の扉へと入る。


そこには、いくつかの机や書類らしき物が、置かれているのが見えた。


ここは、事務室だろうか。


ドラQよろしく、さっそく室内を物色する。


机には引き出しがあったので、下から順に開けていく。



「む、これは。てろり~ん。航は引き出しから、修道服(女)と女性用下着を手に入れた。修道服と下着を使いますか?って、使わねえよ」



この先も自分では使わない…と思う。


他の引き出しを開けると、猫耳カチューシャやセーラー服、バニーガール衣装なども出てきた。


意味不明すぎる。


プレイヤーの悪戯か?


それとも運営の悪ふざけか?


その上さらに。



「………ウホッ!これは青ツナギ…って、ほんとに誰が入れたんだよ!」



青ツナギ置くなら、工房か公園に置け。



「う~ん。こんな物しかないのかなあ。あ、羊皮紙の本…日本語だ」



あまり期待せずに手に取った羊皮紙の本を開くと、日本語の文字が目に入ったので、目を通すことにする。



『〇月×日、運営からサービス終了の知らせが来たから、久しぶりにログインしてみたけど、ギルドメンバーが誰も残ってなかった。ギルドハウスに素材やアイテムが大量に残っているから、もしこれを見た人が居たら、譲るから取りに来て。終了記念イベントの足しにでもしてね。座標は X1542,65 Y552,64 Z4,66 パスワードは”モフモフは正義“だよ』



「…ナニコレ。え、マジ?ご丁寧に地図まであるし、これ酔狂なプレイヤーが残した、本物の情報? ちょっと胡散臭いというか、悪戯やネタのようにも思えるけど、現状ではこの世界について、全然情報ないからなあ。この地図の場所が近いなら、探してみてもいいかもしれない」




一応の収穫に気を良くした俺は、残る扉を開けて進む。



「この世界の労働環境も、中々にハードだったみたいだな」



そこは誰かの執務室らしく、先程の部屋に比べて、明らかに豪華な机と椅子が一組だけあり、応接用の猫足テーブルやソファも置かれていた。もっとも、ソファの上には毛布や布団が散らかり、机に突っ伏した亡骸を見るに、安楽な最後ではなかったことが窺えた。



「何かを握りしめているけど…これは枯れた草か?もしかして、毒草を使った服毒自殺?」



周囲には、机の上から落ちたと思われる、インク壺や書類が散らばっているし、部屋の中で草を握って死んでいるのも不自然だ。推測だが、町が何者かの襲撃を受け、死期を悟っての自害というところだろうか。



室内には、キャビネットなどの調度品も多数あるが、この部屋で最も気になるのが、机のわきに落ちている箱だ。精緻な金の細工が施されたそれは、以前TVで見た富豪が持っていたジュエリーボックスに似ている。部屋の調度品からみて、宝石などの装飾品入れという可能性もあるが、教会の偉い人が、机の上に置いていたとすれば不自然だ。



「欲にまみれた似非聖職者にしては、服装はそこまで華美ではないし、宝石も身に着けてない。そうなると、箱はこの人の物ではなく、教会の備品か?まさか聖遺物…だったら、こんな所には置かないか」



箱を拾い上げ、中身を確認する。


入っていた物は…。



「水晶玉の様な白い球か」



占いか神具の類?


それともラノベ的なアレ?


でも、あまり高価そうには見えないな。



若干の期待を胸に、中の玉に触れる。


すると指輪についた石がひかり、それは水晶玉へと移って、明滅しながら輝き始めた。


水晶玉の輝きは、ある程度で収まり安定する。すると、急に俺の指輪の石が砕け、俺の視界に巻物を模したGUI(Graphical User Interfaceの略)が現れた。



【名前 世界航】


【種族 人族】


【年齢 21歳】


【状態 健康】


【職業   】


【スキル ステータス開示】


【固有スキル 訓練所作成】



「来たキタきたぁぁぁぁ、やっと俺にもファンタジーが来ましたよ」



ゴブリンに殺された?あんなモノは事故。言うなれば犬に噛まれたようなもの。俺はもう忘れたよ。


先ずは名前だけど、これは前の本名そのままだね。次に種族が人族と書いてあるからには、エルフやドワーフも居るのかな? そして、職業は無いか。スキルのステータス開示って今見ているこれか?急に出てきたのは、指輪の石が関係しているのだろうな。それと、固有スキルか。固有スキルって、特別感あるよね。でも訓練所作成って、何だろう。



「身体能力や魔力の項目もないけど、これは現実化による変化なのかな?」



情報が増えたと思ったら、謎も増えたぞ、責任者出てこい。



輝く水晶玉を机に置き、白骨を退けて机の物色を始める。何段かの引き出しがある木製の机だな。豪華ではあるけれど、普通の品だろう。


最下段、ちょっと大きめの引き出しを開ける。引き出しの中には、皮でできた何かが入っていたので、それを取り出して調べてみる。



「皮の肩掛けバッグ?もしかしてこれは…」



大きさはスーパーのレジ袋程度で、構造としては巾着袋に肩掛け用の帯を付けただけの物。


はっきり言って、この豪華な机には似つかわしく無い。


バッグの口ひもを解いて、開いてみれば案の定、俺の視界にバッグを模したGUIが重なる。


GUIには中身を示しているアイコンと、品名のリストが記載されていた。



「色違いや、デザインに細かな違いのあるアイコンが、複数確認できるけど、リストがあるならアイコン要らなくね?視界も悪くなるし。あ、消えた」



俺の考えに沿うように、GUIがリストのみの表示に変わり、GUIも少し小さくなる。一応GUIは透過しているので、完全に視界が塞がるわけではないが、模様のあるガラス越しに見ている感じなので、小さくできるならその方が良いね。



「中身は…初級HP回復、初級毒消し、初級筋力増加に、初級スタミナ回復の各ポーションが各二本。それと回復・火球・鑑定・刃旋風と書かれた巻物があるな。…刃旋風?刃旋風ってトルネード? 一つだけなにか違う。他は…魔導書?手に取ると光りだして、かってにページがめくれたり、魔法陣が出たりするアレ?」



俺は早速魔導書を取り出して開く。



「あれ?何も書いてない」



開いた本は白紙。


だけど、同時に現れたGUIには巻物のマークがあった。



「この本に巻物を入れるのか?」



バッグから火球の巻物を取り出し、本の表紙にあてる。


…何も変わらない。押し込んでもだめだろうなと思いながら、本を開いてまた巻物を当てるが、予想通りというか変化はない。



「だめじゃん」



ならば、巻物を開いてみるか?


忍者漫画でも、巻物は開らく事で効果を発揮していたし。


でもこれって、使い捨ての可能性が高いよな。そうなると、試す巻物は。



「回復は無意味だし、火球や刃旋風もだめだから、鑑定一択か」



俺が鑑定の巻物を手に取り、閉じている紐をほどこうとすると。



『スキルを使用する』


『スキルを取得する』



眼前に選択肢が現れた。



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