第784話 そういう問題ではないと思うのだが

 今年のバースデーパーティーはどうなる事かと思ったわー。ばあちゃんのおかげで、何とかなったけどー。


 あのままだったら、お嬢軍団がお嫁に行けないような事になったかもね。


 現在、パーティーは終わって、客を迎賓館へ送り出したところ。向こうでは、オケアニス達が世話をしてくれる。


 ちなみに、やらかした親子軍団は街中のホテルに宿泊予定だ。帰りたくとも、今日の列車はもう終わってるからね。帰れないよ。


 私はパーティー後の、おしゃべりタイム。参加者はコーニー、リラ、それとチェリ。


 お義姉様はルミラ夫人やヤールシオール、ツイーニア嬢達と過ごすそう。兄がちょっと寂しそうだったっけ。あれだ、ヴィル様達と酒でも飲んでいてくれたまえ。


「それにしても、レラから事前に聞いていた通りになったわね」


 コーニーは楽しそうだ。彼女が今飲んでいるの、結構度数が高いイエルカ大陸の酒だよな? 飲み過ぎないよう、注意しておこう。


「いやあ、私もあそこまで思い通りに動くとは、思わなかったよ」


 そう、あれらはこちらが仕組んだ茶番だ。とはいえ、あのお嬢軍団達にそう動くよう頼んだとかいう訳ではない。


 カストルが、招待しても問題ない家を調べ上げ、ユーインガチ恋勢がいるかどうかを探した。まあ、いるわいるわ、凄い数だったよ。


 で、その中から特に選りすぐったのが、あの連中という訳だ。あの娘達、親の目を盗んでそれなりの悪さをしていたようだから、後でカストルの報告書を送ってあげよう。驚くぞ?


 学院内でこそおとなしくしているようだけど、親の商売仲間でも、自分の家より格下の家の見目のいい息子に擦り寄り、娘の場合はいびり、アクセサリーを奪った事も一度や二度じゃないらしい。どこの山賊だ。


 今回の茶番に参加させられた父親軍団は可哀想ではあるけれど、ある意味娘を育て損ねた自業自得である。あの娘達じゃ、うちでやらかさなくても、いつかどこかでやらかしたよ。


 それに、あの程度を乗り越えられないようでは、家として先行きは暗いぞ?


 コーニーと私の会話を聞いているリラは呆れて、チェリはちょっと困った様子でいる。チェリは優しいから。


 手元のグラスから中身をがぶりと飲んだコーニーが、少し不思議そうに聞いてきた。


「それにしても、今まであの手の子達はそれなりに見逃してきたわよね? 何でここに来て、いきなり厳しくする事にしたの?」


 う。いや、言ってもいいんだけど、何となく気恥ずかしい。もごもご言っていたら、リラが教えてしまった。


「例の公爵令嬢の件で、ユーイン様が酷く落ち込まれてしまったんです。それで、実害が出るのなら、と方針転換したんですよ」

「あらあらあらあ?」


 もー。こうなるから言いたくなかったのにー。コーニーは大好きだけど、こういうところは困りものだ。


「レラったら、ユーイン様の事がとーっても大事なのねえ?」

「コーニーだって、イエル卿の事が大事でしょ?」

「もちろんよ。だから結婚したんだもの」


 そういえば、ここの夫婦はコーニーから結婚を申し込んだんだっけな。相変わらず行動的で格好いい。


「チェリも、ロクス兄様が大事だから結婚したんでしょう?」

「え? ええ、そうね」


 はにかむチェリ、可愛い。これで一児の母とか詐欺じゃない? いや、別に誰の事も騙してないけどさ。


「リラは、ヴィル兄様が大事?」

「ええ、そうですね」


 コーニーから突っ込まれても、リラは平然としている。何か悔しい。


 コーニーも思ったような反応が返ってこないのがつまらないのか、まだリラをイジるようだ。


「でもお、リラのヴィル兄様に対する態度って、どこか固いわよねえ?」

「それは、仕方ないのではなくて? リラもウィンヴィル様も忙しいのだし」


 コーニーの意見に、チェリがやんわりと助け船を出す。当のリラはちょっと呆れているようだ。


「コーネシア様、私とウィンヴィル様は政略結婚です。夫婦というより、戦友と思っていただきたいですね」

「もー、リラはちょっと真面目すぎよ?」

「この人が不真面目なので、私が真面目すぎる程度でちょうどいいんです」


 待って。こっちに流れ弾が飛んできたんだけど!?


 そこからしばらく、お互いの旦那談義に花が咲いた。やっぱりコーニーとチェリが盛大に惚気ていたけれど。


 話が一段落ついた頃、チェリがぽつりとこぼした。


「彼女達は、どうなるのかしら?」


 誰の事と聞き返す人はいない。今日この場で「彼女達」と言うのだから、あのお嬢軍団の事だろう。


 今日のバースデーパーティーは本領での開催なので、公式度で言えばかなり低い。つまり、そこまで肩肘張るようなパーティーではないって事。


 これが王都で開催していたら、一気に公式度が上がる。その場合、王都邸だけでは招待客が全員入りきらなかったかもね。


 それはともかく。そんな内々のパーティーではあっても、招待客の顔ぶれだけ見ると王都で開かれる夜会並だ。


 つまり、あちらこちらの社交界に顔を出すような人ばかりって事。そして、彼女達はこの顔ぶれの前で失態を演じた。


 当然、今日の出席者は社交界催し物に出る度に、噂として今夜の事を話題に出すだろう。彼女達の家は、この先の舵取りが大変になるだろうな。


 もちろん、本人達も。まだ学院生とはいえ、社交界デビューは済ませている。今は七月だから、社交界ものんびりムードだ。


 本格的に始まるのは冬だけれど、その手前、秋にはプレイベントが多く、必然的に貴族達もあちらこちらで集まる事が多くなる。


 本当の地獄は、そこがスタートだろう。


 チェリの呟きに、反応したのはコーニーだ。


「いいとこ、富裕層の後妻辺りじゃないかしら。多分、貴族家には嫁げないわ。悪くすれば、修道院行きでしょうね」

「そう」


 社交界で悪い噂が付いた以上、彼女達に良縁は望めない。せめて家の役に立つよう、平民の富裕層……つまり、父親のかつての仲間の家に嫁ぐくらいがせいぜいか。


 ただなー。商売やってる家で、叙爵されて二、三年しか経っていないのに、もう社交界でやらかした娘を、簡単に受け入れる家があるかどうか。


 余程旨味を感じないと、難しいかもね。そう考えると、修道院に行く方が無難かも。


 いずれにしても、学院卒業まで在学出来るかどうかが、まず最初かな。貴族学院は、社交界のひな形のようなものだから。


 まったく同じとは言わないけれど、似たような部分はあるからね。学院での噂に、まず耐えられるかどうか……その辺りが分かれ道かも。


 ともかく、彼女達自身の事も、家の事も、もう私の手を離れた。私はこの先も、ユーインに粉を掛けてくる女を排除していけばいいや。




 チェリもコーニーも、狩猟祭までヌオーヴォ館に滞在する事が決まっている。パーティーには参加しなかったけれど、チェリはリヴァン君も連れてきていた。


 この間生まれたばかりだと思っていたのに、もう大きくなってるー。ちょこまか歩く姿は、見ていて微笑ましいね。


「なあに? レラ。リヴァンの事をずーっと見ていて。子供が欲しくなった?」

「やだなあ、コーニー。そんな小姑みたいな事言って」

「ちょっと、小姑って何よ小姑って」

「いやあ……ねえ? 大体、それを言ったらコーニーだって一緒でしょ?」

「私はまだ欲しくないもの」

「自分がそうなのに、私に言うのはどうなのよ?」


 コーニーが黙った。そういう思いっきりプライベートな事は、お互いに突っ込まないようにしましょうね?


 チェリがリヴァン君を追いかけて小走りになっている姿を眺めつつ、ぽつりとこぼす。


「まだまだやりたい事、行きたいところが一杯あるからさ。それまでは身軽でいたいんだ」

「わかるんだけどね」


 わかるなら、もう言わないでほしいんですが?




 私のバースデーパーティーが終わると、すぐに狩猟祭の準備に入り、八月には狩猟祭が行われる。


 今年は、チェリも一部で主催側として立ち回らなくてはならない。その補佐をリラが行う。


 これは、リラがヴィル様の妻だから。アスプザット家でのもてなしという事だね。


 ここにコーニーが加わらないのは、他家に嫁に出た身だから。ネドン家は王家派閥ではない。これが大きいんだって。血筋だけではないのが、貴族だなあ。


「今年の狩猟祭、リラが側にいないから、私はボッチ確定だなあ」


 コーニー相手につい愚痴る。


 明日には彼女が王都へ帰るので、最後の時間をゆっくり過ごそうと二人で領都ネオポリスにあるシャーティの店二号店へ来た。


 そのコーニーは、甘さ控え目の焼き菓子を前に笑う。


「何よ? ぼっちって。大体、狩猟祭は普段社交をやらないレラが、社交を強制される場でしょう? 頑張りなさい」

「それは誕生日だけで十分だよ」

「何言ってるの。狩猟祭は同じ派閥の女性しかいないんだから、社交界よりは楽でしょう?」

「えー? 同じ派閥って言ったって、全員が全員仲がいい訳じゃないし」


 私の返答を聞いたコーニーは呆れている。


「違うわよ。王都の社交界に比べれば、人数が少ないでしょって言ってるの」


 そっちー?

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