第613話 もの申す!
ヌオーヴォ館でジルベイラに伯爵の船の予約を頼んだから、後はゲンエッダに戻るのみ。
ヌオーヴォ館からブルカーノ島へ行き、そこからグラナダ島へ。
そういえば、ブルカーノの水のテーマパークって、もう完成しているんだっけ?
ちょっと行ってみたい。
こっそりブルカーノ島の移動陣がある建物から出て、島の反対側にあるテーマパークへ。
行ったら、パーク全体が結界に覆われていた。何でー?
「主様、こちらにいらっしゃる時は一声お掛けください」
「あれ? カストル? ねえ、何でここ、結界で覆われてるの? 中も見えないし」
そう、テーマパーク全体が、霧に包まれたような状態になってるんだよ。どういう事?
「こちらは完成しましたが、まだオープンさせていません。主様が他の事で忙しいようでしたので、先送りにしておりました。結界は、状態を保存する為です。何分、海の側や海上にアトラクションがありますから、腐食防止の為に結界で覆いました」
……確か、ここのアトラクションって船に使っている植物だけど鋼鉄より硬いって素材で作ってなかったっけ? それでも、腐食って進むの?
「ともかく、主様がここのオープンを宣言出来るくらい時間が取れましたら、改めてオープニングイベントを行いましょう」
何か、言いくるめられてる気がする。
そういえば、ネオヴェネチアは既にオープンしているんだよね?
「あちらはテーマパークというよりは、実際に人が住む街ですから」
「その割には、入場料を取ってるよね?」
「……入街税とお考え下さい」
うぬう。ああ言えばこう言う。私、カストルには一生口で敵わないんじゃなかろうか。
ブルカーノ島からグラナダ島に戻ると、リラが出迎えてくれた。
「お帰りなさい」
「ただいま」
「……泣いたの? 何かあった?」
しまった。そんなに泣いた訳じゃないけれど、赤くなってたらしい。回復魔法を使っておけばよかった。
「ええと、大した事じゃないんだけど」
「なら言いなさい。話した方がすっきりするから」
リラからは、逃げられなさそうだ。
グラナダ島の領主館である陽光館は大きくて、領主である私専用の居間も奥に四つもある。
その一つに入ると、コーニーとシーラ様がいた。
「お帰りなさい。……どうしたの? レラ。目元が赤いわよ?」
「お帰りなさい。お兄様の話、聞いたのね?」
ああ、シーラ様も知ってるんだ。そりゃそうか。伯爵はシーラ様の兄だもの。サンド様が知っているのなら、シーラ様も当然知ってるはずだ。
「お母様、伯父様がどうかなさったの?」
「爵位をルイに渡して、本人は隠居するそうよ」
「ええええ!? あの伯父様が!?」
驚くよね、コーニーも。私だって驚いたもの。
「あんたが泣いたのは、それが原因?」
「うん……」
私の短い返答を聞いて、リラが溜息を吐く。
「とりあえず、今ここで全部言語化しておきなさい。後に引きずらなくなるから」
そう……なの、かな? でも、また思い出してちょっと涙が出て来そうだから、確かにこのままだと引きずるのかも。
伯爵は、私がペイロンに送られた時から伯爵だった。私にとっては、絶対の存在だったんだと思う。
養父だとは認識していたけれど、それよりもっと「父親」だったんじゃないかな。
私にとって、伯爵とはケンド卿という個人と、ペイロン伯爵という立場がワンセットだったんだと思う。
今回、そのセットの半分が消える訳だ。それがショックだったのかも。
「後、隠居したら距離感が今より遠くなるような気がして……」
「でも、レラなら移動陣でどこでも簡単に行き来出来るじゃないの」
「コーニー、そういう事じゃないのよ」
シーラ様、ありがとうございます。コーニーはもうちょっと情緒というものをだね。
「……立場は丸っきり違いますが、娘を嫁に出す父親のような感じなんですかねえ?」
そ れ だ。
いや、私の方が娘の立場なんだが? それに、私の結婚の時、伯爵は泣くより喜んでくれたよな。あれー?
「ともかく、関係性が変わる事に対して、一時感傷的になっていたんでしょう」
あー、なるほどー。確かに、言語化したら頭がすっきりした。リラ、凄い。
頭はすっきりしたけれど、騙し食らった事に対する怒りは消えていない。
「シーラ様、サンド様は王宮ですよね?」
「ええ……手加減してね?」
「うふふふ」
答えずに、笑顔だけを返す。
まあ、サンド様の事だから、伯爵本人から聞いてこいと思ったんだろうけどさー。事前情報くらいくれてもいいと思うんだよねー。
グラナダ島からゲンエッダ王宮側の迎賓館へ。そこから王宮へは馬車で行く。迎賓館には、いつでも王宮へ行ける馬車が用意されていた。
王宮に到着し、何も言わないのにサンド様の執務室に通される。全てお見通しって事かなあ。
執務室には、サンド様の他ユーインとヴィル様がいる。もう、本当にこういうところだよね! ガチガチの身内で固めてるとか!
そのサンド様は、涼しい顔で出迎えてくれた。
「お帰り、レラ」
「サンド様、酷い」
「おやおや、いきなりかい?」
ユーインとヴィル様が何も言わないのは、もう聞いてるからだな。
「ケンドの口から、聞くべきだと思ったからなんだ」
「わかってます」
「彼は、今までずっと苦しんだ」
「そう、みたいですね」
「そんな中、ルイや君の存在は、救いだったと言っていたよ」
伯爵……あ、駄目だ。また涙腺が緩む。ユーインが、緩く抱きしめてくれた。
「隠居は、何も悪い事ではない」
「伯爵も、そう言ってました」
「一足先にイズに入るそうだから、上王陛下ご夫妻とのんびり暮らすさ」
「サンド様も、イズに向かわれるんですか?」
「いずれは、と思っているよ。許可してくれるかい?」
「それは、上王陛下ご夫妻に聞いてください」
「そうか」
どうしてそこで、そんな優しい笑みを浮かべるかなあ!?
「もう、本当にサンド様はずるい」
「はっはっは、これでも、レラより随分長く生きてるからねえ」
年長だからって、こうはならないと思うんだ。その証拠に、ヴィル様が苦い溜息を吐いてますよ。
サンド様にもの申すつもりで王宮に来たのに、結果ユーインの膝に抱っこされて慰められてる。
「まあ、これがわかっていたから、事前に何も教えなかったんだよ」
ぐうの音も出ない。
「それにしても、娘を嫁に出す父親と一緒かあ。エヴリラは面白い表現をするねえ」
そーですね。感傷的になってるだけだとも言ってましたよー。
「ケンドもイズに行くし、我が家もとっととロクスに跡を譲って隠居するかなあ」
「思ってもいない事を言わないでください、父上」
「おや? どうして思ってもいない事だと思うのかな? ケンドが隠居するんだ、私が隠居しても不思議はあるまい?」
「父上が近々隠居を考えていらっしゃるのなら、この西行きにはロクスが参加していたでしょうよ」
そう……かなあ? 何せチェリは出産を終えて育児の真っ最中だ。そんな彼女を連れて、どんな場所かもわからない西に、ロクス様が来たかなあ?
内心首を傾げながら親子の会話を聞いていたら、サンド様が鼻で笑う。
「まったく、ヴィルはそういうところが駄目なんだよ」
「な!」
「今のロクスが、こちらに来る事を了承すると思うかい? もし私が今隠居するなら、アスプザット以外の家が外務大臣を務めるだろうね」
「それは……」
「ヴィル、お前もその地位には就けない。何故かはわかるだろう?」
「……私は、陛下の側を離れる訳にはいきません」
「そうだ。なら、『外』に出る外務大臣は、他の家に任せるしかない」
アスプザットは、代々続く外務閥の家でもある。まあ、王家派閥の筆頭で、絶対の忠誠を誓っているからこそ外務を任されているとも言えるけれど。
「まあ、任せられる家も見当たらないから、もう少し私が頑張るしかないかな」
「そうですね。健康に留意して過ごしてください」
「そうしよう。ああ、レラ。運んでもらった通信機は、ここに置いていってくれないかな?」
「わかりました」
あれ、ペイロンへ行く為の口実じゃなかったんだ……いや、ちゃんと持ってきたけどさ。
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