第554話 何故か一緒に

 ニエールからの朗報はまだない。でも、そろそろ移動を開始する事になりそうだ。


「なのに、外に出ないなんてレラらしくないわね」


 放っておいてもらおう。決してグラナダ島での書類仕事が詰まっているから、ではないし、コーニーに言われた「そういう現場に行き会う」という言葉を信じた訳でもない。ないったらないのだ。


「気にしてるんじゃない。まあ、おとなしく書類の決裁をしてくれている方が、私としても助かるからいいわ」


 リラがドライだ。


「レラ、危ない事に行き会ったりしないから、一緒に街を歩きましょう?」

「やだ。絶対何か起こるってコーニーが考えてる!」

「やあねえ。そんな事はないわよ」

「言い方が嘘くさい。だから絶対嘘だ」

「もう! いいから行くわよ! 何か起こったら起こったで面白いじゃないの!」

「うわああああああん!! コーニーのいじめっ子おおおおおお!」

「人聞きの悪い。何か起こっても見て見ぬ振りしてなさい」

「無理だってわかってて言ってるううううう!」


 コーニーに引きずられながら宿泊施設を出る私を、リラが呆れた目で眺めつつ付いてきてる。呆れていても、助けてはくれないらしい。




 グズグズ言う私を含め、女子三人だけで街歩き。ここまでの行動で、この街なら女子だけで歩いてよしという、ヴィル様のお許しが出たから。


 ユーインはイエル卿に引っ張られて、嫌そうにどこかに行ったね。


「さて、見ていないのは街の西側ね」

「西というと、山の方ですね」

「あっちは放牧地が多いから、見るものが少ないって、ローサさんが言ってたわ」


 ああ、通りすがりの第三王子ですねー。なら、行っても何もないんじゃないの?


「レラ、羊を飼うんでしょ? どんな羊がいるか、見ておいた方がいいんじゃないの?」

「えー? それはここまでの領地で見たし買ったしー」


 後の面倒はカストルに丸投げするしさー。


『……』


 あれ? 何か、カストルからの妙な念を感じたぞ? ……気のせいかな。


「ここにも、違う種類の羊がいるかもしれないわよ? 羊だけでなく、牛や山羊もいるかも」


 山羊か。山羊ミルクって、牛乳にアレルギーがある子でも飲めるんだっけ? 近場で牛乳アレルギーの子はいないけれど。


 後、山羊の毛も服飾に使えたような。あれは特別な山羊だっけ?


 とりあえず、見に行ってみましょうか。




 牧場エリアは、のどかな風景だった。山裾を利用した広い牧場がいくつもあって、簡単な石の壁で区切られている。


「あの壁、乗り越えられたりしないのかな」

「乗り越えられるのなら、今頃別のものに変わってるんじゃない?」


 なるほど。コーニーの言う通りかも。


 牧場には、まばらに羊や馬、牛の姿が見える。ごちゃ混ぜで飼育してるのかな。


 その中に、妙な物体が混ざっていた。


「あの毛むくじゃら、何?」

「さあ?」


 私とコーニーの視線の先には、モップのような毛の生き物がいる。ああいう犬は、前世テレビで見た記憶があるけれど……犬なのか?


 しかもそのモップ、三人くらいの男達が布袋に入れようとしてるんだけど。


「あれ、牧場の人なのかな?」

「……そうは見えないんだけど」

「じゃあ、何?」


 コーニーと二人で言い合っていたら、三人の視線がこっちに向いた。あ、こっちに来る。手には大きめのナイフ。


「武器を構えてこっちに来るって事は、敵と認定していいね」

「やっぱりレラと一緒に行動すると、厄介事に出くわすわ」


 コーニー! そんな楽しそうに言わないで!!




 白昼堂々余所様の牧場で家畜泥棒を試みた連中は、最近街で悪さばかりしている流れ者の一味だったらしい。


「おかげで領民の大事な財産を奪われずに済んだよ。ありがとう」

「いえ……」


 牧場でたまたま目に入った連中が泥棒で、現場の目撃者である私達を口封じの為に捕まえて、ついでに売り飛ばしてしまえと行動した為、泥棒を催眠光線で眠らせ、携帯通信機でヴィル様達に報告。そこまではいい。


 ヴィル様が衛兵を連れてやってきて、泥棒を無事引き渡した。それもいい。


 何でその後、領主の邸に招かれて、領主自らお礼を言われなくてはならないのかなあ?


 しかも、泥棒を捕まえた礼だと言われて、今夜の晩餐に参加する事になったとか。おかげで領主の邸にそのまま留め置かれてるよ。


 女子は三人で一部屋を与えられ、晩餐までくつろいでくれーだって。


 部屋にはお付きらしきメイドさん。……多分。


 だって、私の知ってるメイド服は着ていないんだもん。どちらかというと、東欧かもう少し東よりの服……かなあ。


 ここでは会話が聞かれていても不思議はないので、遮音結界と幻影を重ね張り。これで結界の外からは、静かに椅子に座っている私達が見えているはず。


 なので、いくらでも愚痴の言い放題だ。


「どうしてこうなった……」

「それはレラが悪者を退治したからでしょ?」


 うぬう、コーニーめえ。他人事だと思って。


「おかしくない? 貴族の食事マナーとか知らなかったら、どうするつもりなんだろう?」

「それはローサさんから、私達の事を聞いてるんじゃない? ローサさんはもちろん、王宮から話を聞いてると思うわよ」


 ああ、あの第三王子にも、王宮から色々と指示が飛んでるみたいだしねえ。


 そして、今現在ゲンエッダの王都には、オーゼリアの特使ご一行様が滞在している。もちろん、サンド様とシーラ様も。


 特使ご一行様と関係があるとわかれば、貴族と縁のある、庶民を装った連中とみられる訳だ。


 なら、マナーもそれなり身についているだろうと思われる訳ね。納得……出来ないよ! 何で平民の格好をしてると思ってるんだ!


 面倒な貴族同士のお付き合いをしなくて済むからじゃない!


「レラったら、そんな事を考えていたのね?」

「あれ? 考えが読まれてる?」

「私が読んだんじゃなくて、レラが口から考えを垂れ流していたのよ」


 コーニーが酷い。リラは……渋い顔で首を横に振ってる。諦めろって事かよ……




 晩餐は、通常正装をする。夜の装いに分類されるので、それなり華やかだし露出もある。


 でも、この旅には当然持ってきていない。着る服がないから欠席で……なんてのも、通らなかった。


「まさか特急で用意されるとは……」

「こういう家なら、急な客人用の服くらい、用意があっても不思議はないもの」


 ただいま、借りるドレスの手直し中です。さっきまであっちつまんだりこっちつまんだりしていたものを一度脱ぎ、メイドさん達が数人がかりでチクチク縫っている。


 その脇で、衝立を用意してもらって下着姿のまま三人で茶を啜ってる訳だ。


 ゲンエッダのドレス、初めて見たけれどオーゼリアにはないデザインだね。袖が二重で、外側の袖が長い。胸元はVの字に大きく切り込むけれど、肩は出さないようだ。そして襟を立てている。


 色は私が青、コーニーが緑、リラはピンク。現在髪も瞳も色を変えているけれど、普段着ている色の方が選びやすかったから。


 他にも赤、白、黒、茶色、黄色なんかがあったわ。


 短い時間で手直しが終わり、着付けへ。前閉めのローブタイプなんだ。


 髪も綺麗に結ってもらい。髪飾りとして生花を飾る。皆、ドレスと同じ色の花だ。


 仕度をした部屋から、メイドさんに先導されて案内された先には、既に晩餐に参加する人達が揃っていた。


 おお、ユーイン達も、こっちの服を着てる。ちょっと新鮮な感じ。


「あら、イエルってああいった服も似合うのね。何着か、買って帰りたいわ」


 コーニーも似たような事を考えたらしい。リラは……反応なし。緊張しているのが、手に取るようにわかる。


「おお、これは美しい」


 邸の当主、ブンゾエック山岳伯チェセバル卿だ。


 テーブルセッティングも、オーゼリアとは違う。一度に全部の料理をテーブルに並べる方式らしい。


 食べるには、側に付く専属の使用人に取り分けてもらう必要がある。その辺りは、食事が始まる前に説明を受けた。


 山盛りの料理は、肉に魚、野菜、果物と多岐にわたる。こういった食事の内容は、家の力を示すものでもあるから、当主は手を抜かない。


 そういうのは、国が違っても同じなんだなあ。あ、この肉料理おいしい。レシピが欲しいわ。

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