家を追い出されましたが、元気に暮らしています~チートな魔法と前世知識で快適便利なセカンドライフ!~(旧題 家を追い出されましたが、元気に暮らしています)

斎木リコ

プロローグ

 邸の中は騒然としていた。つい二日前、三歳になったばかりの娘が熱に倒れたのだ。医師の診察によれば、体内の魔力が暴走しているという。


 貴族の家の子供には、希にある症状だそうだ。沈鬱な顔の使用人達に、泣きっぱなしの妻。妻の側には、この家の跡取りである長男が、無言のまま寄り添っている。


「どうして……どうしてタフェリナが……」


 妻は娘が倒れてからずっと、泣いてばかりいる。正直、鬱陶しい。


「いい加減、泣き止まんか」

「あなたは! 自分のむすめが 苦しんでいるというのに、なんとも思わないのですか!?」


 自分の妻に叫ばれて、苦い顔をするしかない。政略で結婚したこの妻に、愛情めいたものを感じた事は一度もなかった。


 それは当然、生まれた子供達に対してもだ。あれらは義務で作った子供に過ぎない。


 妻も、それはわかっていると思っていたのに。


「ああ、タフェリナ……タフェリナ……」


 あの娘は、妻が意地で産んだ子だ。本当はもう一人男の子が欲しかったのだろう。長男の控えに次男を作るのはよくある事だ。


 そうして、この家の女主人として立場を強化したかったのだろう。だが、生まれたのは女で、しかも今死にかけている。


 このまま、熱が下がらなければ最悪の事態も覚悟した方がいい。そう言われた時、妻はその場で泣き崩れた。


 魔力の暴走は、命に関わる。だが、現状それを押さえる手立てはない。治す研究をしようにも、発症する人間の数が少なすぎて無理だという。


 娘が発熱してからそろそろ三日目になる。幼子の体力的に、限界だろう。


 あの子供は駄目だったか。だが、自分にはもう一人、外に作った娘がいる。そちらの方が可愛いし、何なら学院に通う年齢になったらこの邸に引き取ってもいい。


 そんな事を考えていたら、娘の部屋から悲鳴が上がった。


「何だ? 何があった!?」


 慌てるように部屋に入ってきた使用人に訊ねるも、要領を得ない。しきりに「お嬢様が、お嬢様が」と繰り返すばかりだ。


 らちがあかない。へたり込む使用人を置いて、娘の部屋へと急いだ。一体、何が起こったというのか。


 死んだのなら、そう言うはずだ。使用人達にも、覚悟はするようにと通達したのだから。


 部屋に行くと、娘はベッドに起き上がっていた。まるで熱の後など感じさせない様子で。


 だが、あれは本当に自分の娘なのか?


 つい先日まで栗色だった髪は真っ白を通り越して青みがかった銀色に、濃い茶色だった瞳は深い青に染まっている。


 色味が変わっただけで、こうも違う人間に見えるとは。


 部屋の入り口で言葉をなくしていると、背後からついてきたらしき妻が悲鳴を上げた。


「あ、あれは誰!? 私のタフェリナはどこ!?」


 妻の目には、ベッドにいるのは自分の娘ではない何かに見えているらしい。


 妻の後ろから部屋を覗いた長男も、妹の姿を見て小さく呟いた。


「化け物……」


 周囲の喧噪の中、主は一つの決断を下した。


「これを、辺境に送れ!」

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