第24話 謎の手紙

 十二月中旬のある日。

 登校すると、机のなかに手紙が入っていた。

 淡いピンクの封筒で、星のシールによって封がされている。


 これはもしや……。

 いや、まさかとは思うが……。

 俗に言う……。

 ラブレター、というやつでは……?


 期末テストを乗り越えたばかりで、気を抜きまくっていた脳が、すごい勢いで活性化する。

 まず当然ながら、イタズラの可能性を疑った。

 いまどきこんな古風なことをしてくる人もそういないだろうし、そもそも俺がモテるとはぜんぜん思えないからな。


 しかし、いかにもしょうもないイタズラをやりそうな、容疑者として最有力の涼平が、まだ登校していなかった。

 まあ、あいつは寝坊することが多いしな。朝一にこんな仕掛けはしてこないか。


 昨日の放課後にやった、という線もないではないが……。

 イタズラというのは、標的が引っかかった瞬間を目撃するのが醍醐味である。

 この場にいなければ、おそらく犯人ではないだろう。


 となると……いったい誰だろう。

 うーん、わからん。

 ほかの容疑者はさっぱり思い浮かばなかった。


 ということは……。

 イタズラではない……?


 …………いや、落ち着け。

 だからといって、ラブレターとは限らないだろう。

 相手に精神的ダメージを与える果たし状という可能性もある。

 あるいは、単に机を間違えたうっかりというオチも考えられる。


 まあ、なんにせよ……。

 ここで浮き足立ってもしょうがない。

 まだ朝のHRまでいくらか時間があるし、さくっと確認してみよう。


 教室で読むのはさすがにアレなので、手紙をポケットに忍ばせて廊下に出る。

 階段をあがり、人気ひとけがない屋上前の踊り場まで移動する。

 そして、ドキドキしながら、丁寧に封を開けた。


 二枚の便箋が入っており、こんなことが書かれていた。





 川原くんへ。


 突然こんな手紙を送ってしまってごめんなさい。

 でも、もう、我慢できなくて……。

 迷惑だったら無視してくださって構いません。


 でも、もし話だけでも聞いてくれるなら……

 今日の放課後、西棟3階の空き教室に来てください。

 折り入って相談したいことがあります。

 よろしくお願いします。


           H・M


 追伸1

 ラブ的なレターではありません。

 期待させちゃったらごめんね(^_-)-☆


 追伸2

 もし来なかったら、お弁当の秘密が流出してしまうかもしれません。


 追伸3

 あ、ほんとに予定とかあって無理な場合は、昼休みとか、なんならべつの日でも大丈夫だから。その場合は、休み時間にテキトーに声をかけて。


 追伸4

 ……なんかごめん。正直、思いついたときは超ウケると思ったんだけど、ここまで書いたところでちょっと冷静になってきたっていうか、こんな手紙を出すのはどうかと思ってきた……。


 追伸5

 でも、せっかく書いたのを捨てるのもなんだし、やっぱり出すことにするね。


 追伸6

 いやもう、ほんとごめんて! 怒らないでね!





「…………タチわりぃ……」


 俺は深々と吐息をもらし、盛大に苦笑いしながら愚痴った。

 ちなみにイニシャルまでが一枚目で、二枚目が追伸になっている。

 てゆーか追伸のほうが多いってなんだよ。


 で、このH・Mってやつはいったい誰なのか……。

 考えるまでもない。

 うちのクラスで当てはまるやつはひとりしかいないし、弁当の件にふれているからな。


 男女問わず人気がある、我らが学級委員長――

 三浦陽那である。


 そうだった……。

 三浦さんもこういうことやるタイプだったわ……。


 まあ、いいけどさ……。

 涼平にやられたらひたすらムカツクだけだが、三浦さんの場合はなんか憎めないっていうか、むしろそのお茶目な感じがいいよね、とか思わないでもなかった。

 最後のほうに冷静になって謝ってるところが、涼平とは違うし。


 ともあれ、今日の放課後はこれといった予定はない。

 素直に呼び出しに応じてやろう。

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