異世界をブラックキャットと行こう

@kazu36

第1話 科学オタク

正人の眼下には、地球によく似た、でも地球とは明らかに違う大地が、空が広がっていた。

状況を分析する為にゆかりに指示を出し、ゆかりがフル稼働して分析をする物の、どうしても状況が把握できないようだった。


確実に分かるのは、窓の外には青い空と海、緑と茶褐色の大地が広がる、とても美しい地球の風景だと言う事。だが、ゆかりが持っている地図には同じ地形の場所は一か所も無さそうだ、と言う事。

流石の正人でも、自分が置かれた状況をすぐに把握する事は難しそうだった。


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西暦二〇十八年。神奈川県横浜市。横浜中心部より鎌倉に近い新興住宅地が並ぶ街で、一人のオタク高校生が世紀の大発明をしていた。

ある意味、科学技術のシンギュラリティを超えられる可能性を持ったその発明は、作った本人ですらその意味をよく理解していなかった。


「ゆかり」と呼ばれるその発明は、当初は自動プログラム生成ソフトの事を指していた。


ゆかりと言う名は単にその高校生の憧れている同級生の名前だった。


与える仕様に従ったプログラムを自動的に生成する、と言う単なるマクロ言語のつもりで作ったソフトだが、このソフトは単なるマクロ機能のレベルをはるかに超えるシステムを産み出すことを可能としていた。


初期のゆかりは、非常に簡単な仕様を入力させてコードを自動的に生成するだけの本当に単純なソフトだったが、このゆかりを使って新なゆかりを生成し続ける事で、生成処理速度も実現出来る事も増えていく事に気づくのに、一週間もかからなかった。

持っているコンピュータの性能が良くない事は分かっていたが、それでも何日もかけて何度かの自動生成を繰り返す事で、当初この高校生が作ったプログラムより複雑な機能を持ちながらより最適化されたソフトウェアが作られ、その性能は実に当初の十倍にもなった。

この事に気を良くし、パソコンの電源を切らずプログラムを動かし続けて数ヶ月。

その自動生成ソフトは、ある種の人工知能を産み出す事に成功していた。


もちろん人工知能と言っても別に思考能力があるSFに出てくるものでは無かった。単に高速なデータベースのあいまい検索システムと言えた。だがインターネット上にある様々なデータを効率的に検索できるそのシステムは、ゆかりの性能を更に飛躍的に向上させた。

こうして、プログラム自ら効率的なロジックを学習し、新たなコード自動生成プログラムを産み出す事を繰り返していた。


高校生が次に生成させたのは、ハードウェアの設計図だった。

工業製品を生み出すために必要な様々な工作機械の設計図。

ローコストな部品を高校生の技術で組み立てられる難易度で作れる設計図を作ったのだ。

もちろん高校生がそんな設計図を作れる訳では無く、ゆかりを利用して設計した。欲しい機能を決まったフォーマットで入力し、ネット上に存在する様々な情報を学習させたゆかりに、設計図の生成をさせたのだ。

これを元に、この高校生は様々な工作機械を作った。

こうしてプログラムだけでなく、ハードウェアを作る能力を手に入れる事に成功した。


ただし、初期に高校生が作成した工作機械はお世辞にも先端には程遠い精度の物だ。所詮は高校生が組み上げた機械。

だがここからがこの高校生の凄かったところだ。

この、精度の悪い機械を使って、より精度のいい機械を産み出す工作機械を作り出す。

もちろんその設計図はゆかりに作らせた。


この行為を何度か繰り返す事で、気が付けば人類史上最も精度の高い工作機械を持つ個人となった。


彼は大学に進学してもこの進化行為を止めなかった。

最高の工作機械と、進化を続けるゆかりを駆使して、世に存在する最高峰の電子機器を遥かにしのぐ電子機器を産み出し、気づくと地元の地下深くに彼の秘密基地を作るに至っていた。


彼と言うよりは、ほぼゆかりと自動工作機器によつて生まれた機材は、人知れず地下深くに基地を作り、そこに巨大なコンピュータシステムや高性能な工作機械を隠し置く。

穴を掘る事で出てくる土は、超高圧で圧縮し

エネルギーシステムも、彼は独自に核融合炉を作り上げ、それを電力にしてさらに巨大システムを動かしていく。


二十歳になる頃には、彼は一国の国家権力に匹敵する様々な武力を含む装備を密かに所有する人物になっていた。言ってみれば世界征服を企てるマッドサイエンティストと呼べる力だ。


彼の作り上げた最高の装置はブラックキャットと呼ばれる航空兵器だった。名前がいかにも中二病な学生が付けた感丸出しだが、ネコ科のような機体後部のボリュームからそう名付けられた黒塗りされたその機体は、まさにSF映画の宇宙船。

ゆかりの力と最新鋭の製造装置が組み合わさって作られたブラックキャットは、人類がまだ所有していない事になっている重力反応路や慣性制御システムを備え、表面装甲は核ミサイルの直撃に耐えうる圧倒的耐久性を誇る物になっていた。

その圧倒的な防御力に加えて、攻撃能力も地球でおおよそ考えられる兵器のはるか上を行っていた。

エネルギー兵器が産み出す破壊力は、最大出力なら一撃で人類が持つ最大級の核兵器の破壊力を遥かに上回り、立った一撃で日本列島を消し去る程のもの。核兵器が爆竹程度の破壊力に見える程の驚異的破壊力を誇った。

また、実弾兵器も通常の火薬によるものをいくつか搭載していたが、実はゆかりの計算により、火薬の爆発の瞬間に特定のエネルギーを与えてあげる事で、その破壊力は何十倍にも高まる事を突き止めていた。

つまり、ブラックキャットのシステムを使えば通常兵器が核兵器並みの破壊力を持つのだ。弾薬内部に仕込んだエネルギー発生器の与えるエネルギーによってその火力の増幅力は変化できる為、火力調整も容易だった。


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