第10話 ブラックボックス
世界は真実で溢れている。
まだ若い時はそう思っていた。
飛び降り王子は小学生の頃から競馬が好きである。
よく読んでいた競馬雑誌の広告にある予想本の謳い文句が何と「的中率93%」!
これは入手しなければいけないと思い、親にねだった。
「この本凄いよ! 買ってよ!」
「そんなの嘘に決まってるでしょ!」
軽く一蹴された。
三十五歳の今なら確信を持って断言出来る。100%嘘に決まっている。
百聞は一見にしかず。
自分は世間知らずだったのだろう。
その一言で切り捨てられれば良いが、とはいっても人間の経験や知識には偏りがある。
そのため、体験者からすると、一体、どこからその知識を仕入れたのかと耳を疑うことも多々出てくる。
先日、ツイッターであった。
自殺未遂者には保険が効かないとツイートしている人がいる。
驚いた。
そんなはずはない。
すぐさまググった。便利な世の中である。小説でもグーグル先生にお世話になって、自分は作家というよりも編集者なのではないかと思ったくらいだ。
話を戻す。
グーグル先生によれば、精神疾患が原因の自殺未遂には保険が適用されるという。事実、自分の飛び降りに効いている。高額医療費制度の払い戻しも受けている。
親任せだったので詳しい手続きまでは分からない。それでも一応、知っておくべきことだと思い、親から話は聞いている。
適用されないというのは、どうやら故意に自殺して悪用するのを防ぐための措置らしい。病院に通っていれば診断されているから問題ないだろうが、実際は病院に通っていなくても効くというニュアンスとのこと。診断されているか否かが基準になるのならシビアな話だ。
もう一つ、ツイッターから。
インターネット経由のED治療薬の半分は偽物だという製薬会社の調査があるらしい。
ツイートしているのは医者。
日本の正規品も個人輸入もどちらも経験している自分には信じられなかった。単に怪しいところで買っているだけではないのか?
王子はインドのジェネリック品を老舗の個人輸入代行業者から購入している。
インドは特許が独特なのである。
HIVの薬等は高額すぎて発展途上国の人は買えないという配慮から、特許を一部認めていない。ED治療薬もそのおかげで格安のジェネリックが多数販売されている。正直、保険の効かない正規のED治療薬は高すぎて簡単には手が出ない。
製薬会社の闇を感じる。
政治に感じる闇に似ている。
自分の体は無事。効果がなかった試しも特にない。
正規品が売れなくなっては製薬会社が当然困るだろう。そのため、偽物が流通しているという偽りの調査結果を広めているのではないか……?
素人には真偽の確認のしようがない。
昔はあんなに無垢に広告を信じていたのに、陰謀論を唱え出すとは歳を取ったものだ。
闇を感じていても、事実、真相は闇の中なのに……。
※なお、個人輸入代行はもちろん合法ですが、健康を害した場合の補償が受けられません。自己責任でお願いいたします。
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