第3話 執着心

「え!? そこ気にするの!?」と人に思うことはないだろうか。

 前職の同期に、気にする部分のバランスが非常に悪い女性がいた。

 Aさんとする。


 彼女は人を隠し撮りしてLINEのグループに平気でアップするくせに、自分が撮影されるのは嫌がる。

 理由を聞いたら、元彼を亡くしていて、写真嫌いでまともなのが残っていないという。だから嫌がられても他人を撮影するらしい。自分が撮られるのを嫌がるのは単に醜形恐怖症の気があったのではないか。いつもマスク着用していたから。


 他にもある。

 夜に二人で自転車を漕いでいた時のこと。

 夜間だからライト付けなよという。

 壊れているので付けられない(事実)と返すと「それなら交換しなよ」とまで言ってくる。

 ん?

 確かに壊れたまま放置しているのは違法で危険なことだが、自転車のライトでここまで深く突っ込まれたことは初めて。Aさんは結構なスピードで自転車を漕いでいるというのに。その違和感たるや。

 書いてて気付いたが、元カレを交通事故で亡くしているからかもしれない。


 まだある。

 Aさんは相当な秘密主義者で、近く退職することを周囲にひた隠しにしていた。

「他の人には秘密だからね」と教えて貰い、その後、彼女は退職した。退職後まで隠す必要はないと自己判断して他の人に言ったら、それが彼女に伝わったらしい。「どうして守れない約束するの?」と問い詰められた。

 え?

 自分の考えを伝えたが、結局、喧嘩になった。

 人が気にするポイントというのは本当にそれぞれなんだなとこの件で重々学んだ。


 王子が飛び降りた時に気にしたことは……。

 搬送された集中治療室で、服が脱がされていることに気付いた。意識は所々飛んでいる。

「服どうしたんですか?」

「脱がすためにハサミで切りましたよ」

 おい。

 せめて最期だけは美しくあろうと一番お気に入りの服を着て飛び降りたんだ。

 何故、ハサミで切る……。

 本当にショックだったが、事態の大きさに気付いていないからこそである。


 もう一点。

 飛び降りたにも関わらず歯が折れていなかった。嬉しくて看護師にも伝えたほどだ。後々明らかになると滑稽でしかないが、そもそも腰椎が折れているのである(他に足の一部も)。歯が折れていた方が遙かにマシだろう。

「気にする」という行為一つ取っても、そこには知識なり経験なりの積み重ねがあるのだなと思う。何か学んだり経験したりすれば、気にするポイントもあっさり変わるのではないだろうか。


 適切な表現かは微妙だが、王子は小説を執筆することを非常に「気にしている」。

 飛び降りの後遺症が酷くて他に出来ることがないと思い、小説を書こうと思い立った。しばらく書いていない時でもずっといつかは書こうと考えていた。

 日常生活で困ることもないくらい後遺症が良くなった今、もう気にする必要はないのだとも思う。

 だが、人の心は簡単ではない。

 一度決めたからには認められるまでは止められないというのがおそらく本音なのだろう。

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