王族に生まれたので王様めざします

脇役C

プロローグ「死にました」

 俺は17歳、高校生。

 昼は働き、夜は高校に通っている。

 苦学生というなら響きはいいが、やってみるとそんなにいいもんじゃない。

 まったく。


 生まれてこのかたの悩みは、常にお金がないということ。

 クズでメンヘラな親のおかげで、俺が汗水たらして稼いだ金が朝露のごとく消えていく。

 それならまだいい。

 どうして、ガスと電気が止められているんだ。

 俺の金はどこに消えていっているんだ。

 水シャワーで頭を洗うと、ふと涙が出てきて止まらなくなる。

 発展途上国は水があるだけで幸せなのだ、俺はなんて幸せ者なんだ!

 と自分に言い聞かせてみるが、あまり効果はない。

 

 一度、「家に入れる金が少ない」と、のたまいやがった母親と大げんかになった。

 自分の通帳を奪い取って家を出て1人で暮らしてやるとは思った。

 もうこんな生活、うんざりだと。

 だが、母親が「あんたも父親と一緒ね!」と叫んだのを聞いて、冷めた。

 父親もそうとうなクズだった。

 料理洗濯しないでスロットに逃げ込む母親に同情してしまう程度には。

 弟と妹のことを考えた。

 出て行った兄と同じように、弟たちをこの母親のもとに置いていくのかと。

 今日も早く寝なくては、と思った。

 俺には仕事と学校が待っている。


 その日のことはよく覚えている。

 安全第一という標語がぶら下がった工場で、ケガ防止のためのラジオ体操をいつも通りこなした。

 母親と過ごしてしまった不毛な時間のおかげで寝不足気味だ。

 安全第一も、朝礼も、ルーチンになれば危機意識は薄まる。

 その日、俺は天井クレーンを操作していた。

 そして、どこでどう間違ったのか。

 クレーンで運んでいた1tほどの鉄板に押しつぶされて俺は死んだ。

 ここらへんの記憶は曖昧だ。頭がつぶれたからだろうか。

 死ぬ瞬間に見られるという走馬灯というのもなかった。

 ただ、講習を受けたときに言われた「ぜったいに運搬している荷物の下に、人を立たせないように。絶対にね」というセリフを思い出した。

 絶対に押すなよ!絶対に押すなよ!というギャグも同時に思い出した。

 俺は死ぬ間際まで、こんなくだらないことを考えるのだろうか……。

 ほかの人じゃなくて、自分だったのが不幸中の幸いだなと思った。

 いや、不幸中の不幸だったな。

 俺はまだ死にたくなかったよ……。

 ブレステ4欲しかったし、高いステーキや寿司を嫌いになるほど食いたかった。

 あ、彼女も欲しかったな……。

 そんな贅沢する金も、彼女とデートする金も、そもそもそんな女性と全然縁がないままに人生を終えてしまった。

 仕事をして金だけむしりとられて、勉強したけど何にも人生にプラスにもなっていない。

 俺の人生はいったいなんだったんだ。

 貧乏が憎い。


 もし来世があるのなら、ぜったいお金持ちの家に生まれてやる!

 そんでもって、札束のお風呂に入りながら両手に美女をはべらかしてやる!


 そう思いながら俺は死んだ。

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