第43話 串焼き
初心者の町に来て仲間の姿を初めて知ったのだが、ミーファもちーちゃんもスンゴイ可愛い娘だった。
エルフと聞いていたので、ミーファはひょっとしたらという考えはあったが、ちーちゃんは正直驚いた。
ふたりとも俺がこれまで見てきた女の娘の中でもダントツの可愛さなのだ。むしろこれ以上可愛い娘ってこの世にいるの? ってぐらいのレベルだ。TVで良く見かける可愛いとされるアイドルやグラビアモデルなんか目じゃない。
だが、その可愛さは俺にとってとても嬉しいのだが、反面苦痛をもたらす。
昔、可愛い義理の妹に毎日のように好きと言われて、ついその気になってしまい抱きしめてしまったら『キモい!』っていわれて、それ以来変なトラウマになって女子のことが苦手になってしまったのだ。
特に『可愛い娘』と思うともうダメだ……。この二人の最強レベルの可愛さは、吐き気を催して倒れそうなくらい緊張してしまうのだ。
そういえば生前に見た面白動画で、部活のブラスバンドがコンクールの演奏中に、ドラム担当の男子が緊張しすぎてドラムを叩きながらゲロゲロ吐いてた動画があったな……俺も極度の緊張であんな状態になるんだろうな。
こんな情けない俺が、何の因果か客室の空がないという理由で、現在三人での相部屋なのだ。
寛ぐ為の宿屋なのに全く気が休まらない。どうしても可愛過ぎる二人を目で追ってしまうのだ。
女の娘が嫌いっていうのじゃない……。むしろ大好きだ。心では求めてるのに、いざ対面すると体が拒否してしまう厄介な状態なのだ。
「八雲君、本当に大丈夫なの? 凄く顔色悪いよ?」
「あまり大丈夫じゃない……。悪いけどちょっと横にならせてもらうね。マジ吐きそう……」
「容姿を見て吐きそうとか言われたの、わたくし初めてだわ。……ヤクモ変よ」
「変なのは分かってるよ。極度の緊張で吐き気を催すんだ。二人が可愛過ぎるのがいけないんだよ」
「可愛いと言ってくれるのは嬉しいけど、えずきながら言われてもねぇ」
「俺のことは気にしないで、そのルールとやらを決めてくれ」
決まったルールなのだが、これって俺専用だと感じるのは気のせいか?
・黙って置いて行かないこと
・女子の着替え時は、廊下に出ること
・寝顔を覗き見ないこと
・不用意に触れないこと
・必ず部屋への出入り時にはノックをして、了承を得てから入ること
どうやらラノベのようなラッキースケベ的要素は起りそうにないな。
「もう置いて行かないって言ってるのに、わざわざ項目の一番最初に書き入れなくても良いと思うのですが?」
「「却下です!」」
2度の前科持ちは信用できないそうだ。
「具体的な今後の活動方針はどうしようか?」
「お金も武器で殆ど使っちゃったしね……ヤクモどうしたら良いと思う?」
「う~ん、問題なのは俺のレベルなんだよね。討伐依頼は受けても、魔獣を狩っちゃうとすぐレベルアップして、もうこの町には入れないでしょ。次の町で報告して報酬は貰えるそうだけど、もう少しこの町を散策したいよね?」
「そうね。う~ん、レスカさんが言ってた、明日のギルドの定期講習会を受けるのも良いかもね」
「でも、危険も伴うよ」
「「危険?」」
「ビギナーばかりだけど、二人が可愛いからまた勧誘があるだろうね。もしくは、しつこく仲間にしてくれとか……。後、講習会に来てる奴をチェックして、その者たちが町を出るタイミングに合わせて外で狙ってくる可能性もある」
「外で待ち伏せとかありそうね。何せ最大でも10日間しか滞在できないんだから、それぐらいなら苦労なく狙えるわよね」
「講習会でチェックして、一度外に出て入門料を再度払えば狩人たちは10日丸々付狙えるからね。ターゲットが町を出るのを虎視眈々と待っていればいい」
「私たちも既に狙われてるかな?」
「俺たちは今のところ大丈夫だ。ナビーが優秀だから、そういう者たちが付いた時点で知らせてくれる」
「八雲君のチュートリアル機能、良いな~」
「ちーちゃんも条件は同じだったのに、イメージが足らないからいけなかったんだよ。最初にイメージが大事だって教えてあげていたのに……」
「そうなんだけど、そこまで差が出ると思っていなかったのよ」
「わたくしもやりなおしてナビーちゃんみたいなの欲しいな」
『♪ 二人とも可愛くて良い娘ですね!』
『ちょっと褒められただけで良い娘とか……どんな基準だよ』
『♪ 彼女たちが良い娘なのは事実ですよ。これほど性格の良い娘は数万人に1人です。容姿まで含めたら天文学的にいないですよ。それこそアリア様が納める世界の中でも数人ってレベルの娘たちです』
『それほどなの? 確かに可愛さはヤバいレベルだけど……』
「ヤクモ? どうしたの?」
「あ、ナビーと念話してただけだから大丈夫だよ」
「ふ~~ん。具合まだ良くならない?」
「あ、少しは落ち着いたから大丈夫だ。ありがとう」
「ねぇ、折角だし夕飯までの間、町の見物に出ません? 今後どうするかは、色々見て情報収集してから決めましょ」
ミーファが建設的な意見を出してきた。
「私、ちょっと外を出歩くの不安なんだけど……」
ちーちゃんはさっきの件もあるので、ちょっと外出は不安なようだ。
「ヤクモ、付いて来てくれるよね?」
「折角なので異世界見物しますかね。ちーちゃん、心配しなくても俺とミーファが居れば大抵の敵は手を使わなくても倒せちゃうから大丈夫だよ。折角の異世界なんだし、どうせなら楽しんじゃわないとね」
「う~ん、じゃあ、行ってみようかな……」
宿屋のお姉さんに断りを入れ、夕飯時刻まで出かけることにした。
この町はそれほど大きくはない。なにせ町には定住している住民が居ないのだ。町と言うより村ってレベルだ。
地上にちゃんとした世界があり、そこから転移魔法で毎日通ってくるそうなのだ。
神の定めたルールだそうで、俺たち転生者はその転移陣に入っても一切起動しないそうだ。
大通りは200mほどで、いろいろな商店が道の両サイドに並んでいる。
丁度中間地点位に開けた公園があり、屋台のような出店が並んでいた。
「ヤクモ! あれ食べたい!」
とても香ばしい匂いを漂わせている屋台だ。何かの肉の串焼きを炭火で焼いているようだ。
「おじさん、それ何の肉?」
「これはオークの肉だ。海の底じゃ居ない魔獣だが、地上では一番安価な肉だな。でも旨いぞ」
「ちーちゃん! オークだって!」
「オークって、定番の豚人族の魔獣だよね?」
「多分そうだと思う。鉄板設定なら旨いはずだよね?」
「うん。日本のラノベがモデルなら美味しいはず……」
「おじさん、それ3本頂戴。あとその飲み物も3つね」
結構大きめのぶつ切り肉が4個刺さってる串が1本50ジェニーで、イチゴ・オレのような甘酸っぱい牛乳のような飲み物が100ジェニーだった。
「旨い! これヤバッ! おじさん、もう1本ずつ焼いてください」
「ヤクモ、わたくしはもう良いわ。大きいからもうお腹いっぱい。夕飯が食べられなくなっちゃう」
「私はもう1本食べたいかな。初めての味で凄く美味しい」
「じゃあ、ミーファの分は俺が貰うね。塩コショウはこの世界にもちゃんと有るみたいだね。何だろうこの食感……豚8:牛2って感じかな?」
「うんうん、そんな感じだよね。柔らかくて美味しいね」
「がはは、可愛い嬢ちゃんたちに旨いって言ってもらえたら嬉しいな! うちのはひと手間掛けてるからな。一度酒に浸けて肉を柔らかくしてから香草タレに浸け込んでるんだ」
「とっても美味しいです。俺のいた世界にはオークは居なかったので初めての味です」
「ふーん、ヤクモたちの世界にはオーク居ないんだ」
その後も雑貨屋などの商店を冷やかしながら、ウインドウショッピングを楽しんでいたのだが、不意にミーファが外を歩いてる者に声を荒げて叫んだ。
「そこの者! お待ちなさい!」
何事かと商店から外を見たら、手枷を嵌められて紐で引っ張られている者たちが居た。
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