猛毒無双 ~転生したら海の中~

回復師

第1話 卵の中

 俺の意識というか自我は数日前に戻った。覚醒したといった方が良いのかな?

 どうやら俺は卵の状態で母に抱かれて見守られているようだ。

 目も少しだが見えるようになり、卵の中から周囲を観察できるようになった。


 そう、卵の中からだ……。


 目の前に見える俺の母の姿は、どう見てもタコだな。蛸、鮹、章魚、鱆、学術名オクトパスだ。

 あの運命神とかいう可愛い女神様が、なぜか俺と目を合わせなかった理由がこれで分かった。


 転生とか言いやがって……タコじゃないか! せめて陸上生物にしろよ! 軟体動物って有り得ないだろ! なにが運命のルーレットだ! 却下だ! やり直しを要求する!


 意識が芽生えてから何度目かの鬱憤を吐き出してみるが、なんのアクションも返ってこない。


 卵の中から母を眺めるが、慈愛に満ちた目で俺たちを見つめている。

 本物のタコより少しデフォルメされたような可愛らしさのあるタコさんだ。グロテスクな感じは一切ない。

 母親を見ながら思う。この母の姿は俺が食ったタコと同じ種だよな……神によって罰が当たったのか? 救済とか言ってたけど、これって罰だよな? 食ったタコと同じ種族に転生だとか……罰としか思えない。



「もうそろそろ生まれそうね。可愛い私の子供たち、早く出ておいで~♡」


 タコ母さん、喋れるのか! 会話ができるのは良いな。異世界仕様なのかな?

 まさか日本の海域とかじゃないよな? 異世界転生とかあの女神様も言っていたし。


 だが、卵の中からだと、タコ母さんと会話できないようだ。




 俺は半透明の卵の中で羊水に包まれていて、食事は要らないが何もする事がなく退屈している。意識が覚醒してからのこの3日間、1日のうちの殆どを寝て過ごしている……何故だかやたらと眠い。

 卵の状態だからか? 赤ちゃんのうちは良く眠ると聞く……こんなものなのかな?


 でも、このタコ母さん……なんか弱ってないか?


 俺の意識が芽生えてからの数日、タコ母さんが食事を摂ってるのを見かけていない。俺の寝ている知らない間に何か口にしているのであれば良いのだが……少し心配だな。




 俺がこの世界に転生する事になった経緯なのだが、ちょっと恥ずかしい。


 俺は日本生まれの日本育ち。家庭のちょっとした事情はあったが、どこにでもいるごくごく普通の16歳の高校生だった。


 高校に入る際に親元を離れ、一人暮らしをしていた。

 趣味は多岐にわたるが、最近は釣りが好きで、休日にはあっちこっちよく釣りに出かけていた。


 雨や風が強く、海が時化て釣りに行けない日は、ラノベやアニメ、MMOなんかのネットゲームをして遊ぶのが日常だった。


 その日も例のごとく、早朝より近くの砂浜に釣りに出ていた。


 今日のターゲットはキスだ。天婦羅やフライ、刺身でも美味しく食べられてお気に入りの魚だ。釣って良し、食べて良しの魚を好くターゲットにしていた。


 今日の釣り場は砂浜と磯の境目で、キス以外にも運が良ければメゴチ・カレイ・ヒラメなどが稀に釣れる。どれも美味しい魚だ。この境目での釣りは、魚種は増えるが、底釣りなので根がかりも多くなる。


 夕方まで弁当持参で釣りを堪能し、そろそろ帰るかなと仕掛けをあげようとしたら、また根がかりしたようだ。ちょっと強引に引っ張ったら何やら重くゆっくりと上がってくる。

 よく見れば15cmぐらいのタコが付いているじゃないか……少し小さいが、タコは俺の大好物なのだ。


 根がかりと思っていたら、思わぬ獲物が掛かっていて喜んだ。


 今日の釣果は、キスが18匹、メゴチが8匹、30cmほどのヒラメが1匹、そして小さなタコが1匹だ。

 数釣りのできるキスが1日粘って18匹は潮目が悪かったのかちょっと少ないが、小ぶりのヒラメとタコが釣れたので満足の行く釣果だった。


 夕飯にキスの天婦羅とヒラメの刺身、タコの刺身を作って食べたのだが……この時、事件が起きたのだ。


 ********************************************************

 お読みくださりありがとうございます。


 この物語は、以前『海洋物語』というタイトルで投稿していた作品です。

 私の4作品目にあたるものだったのですが、あまりにも人気がなく一度削除したものです。


 作者的には大好きな作品なのですが、主人公がタコとか、ヒロインがエビやカメという設定だと、読者様的に感情移入が難しく、思った以上に人気が出なかったのです。20話目にヒロインが出てきて、面白くなってきます……それまで読んでくだされば良いのですが……


 ボツにしていた過去作品ですが、改稿して再投稿することに致しました。


 面白いと感じてくださった方は、お気に入りに入れて継読して下さると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る