転生してもゴミ特典しかなかった件

マクバ

転生して16年、何の成果も得られませんでした


雨が好きだった。雨の音が落ちるのを聴きながら本を読む時間が特に好きだった。別に重い病気でずっと病室にいたからという訳じゃない。そして学生、社会人として外で過ごすのが嫌だった訳でも無い。ただ本の中で繰り広げられるストーリーを楽しむことがなにより好きなだけだった。雨の音は周りの雑音をかき消してくれた。俺がストーリーの世界にのめり込むためのBGMとして最も優れていた。




外の車の音……近所の子供の声……そういった音を全てかき消してくれた。そう俺は本の中の世界で冒険するのが好きだった。子供の頃から、そして大人になってもだ。だが






「実際に物語の中のような世界に転生するのは違うと思うんだよねぇ」




村のすぐ近くの林の中で俺は1人そう愚痴った。しかもこんな最近流行りのファンタジーな世界に行くのはさ。もうちょい現代風の学園モノの世界とかでよかったんじゃないの?こんな愚痴を繰り返してもう16年である。


居るかも分からない神様にそんな愚痴を言いながら今日も森の中で獣を狩る。生まれたところが猟師の家だったからだ。自分の家族はこの村で唯一の猟師で、つまるところ村のタンパク質は俺らが担っていると言っても過言ではない。


俺ももう16年この世界に生きてしまった。多分もう元の科学の発展した世界に住んでも逆に適応出来ないだろう。いやもしかしたらこうして今の生活に慣れたようにまた適応し直せるかもしれない。




そんなことを考えながら林の中を歩いていると猪のような獣を1匹見つけた。なぜような、と言ったかと言うと俺がファンタジーな世界と称しているようにこの世界には普通の動物と同じように魔物と呼ばれる生き物が生息しているからである。彼らは動物に近い外見をしていたり、そうでなかったりするが総じて動物より攻撃性が高く、また殺傷力も高い。


猟師というのはそういった魔物を避け、動物を狩る者のことを言うんだそうな。そして動物と魔物の見極めには俺にしかできない方法がある。




それが




「『ステータス』」




名前 イノシシ




レベル 1




筋力 8


耐久 4


敏捷 7


知能 2


器用 2


魔力 0


幸運 2




スキル 【なし】


状態 良好




これである。よくゲームなんかに出てくる能力を可視化して表すステータス。これを俺は実際に出して見ることが出来る。このステータスの結果は俺にしか開示されない。俺にしか出来ないし見えないというのは他の人が出来ず、見えないことは確認済みだからである。小さな村単位でしか確認出来ていないからもしかしたら他にも居るのかもしれないが今のところは俺だけの能力と言って差し支えないだろう。


ちなみに今までの経験上動物は基本的に魔力は0である。これと名前が動物か魔物であるかの判断材料になる。そして今回は普通にイノシシだったので狩ることにする。




俺はイノシシの背中に回るように音を立てずに動きながら、背中に装備していた弓を構える。そして矢を番え、まずは足に1発矢を打ち込む。驚いてこちらを見た瞬間に顔に打ち込む。


上手いこと眼に刺さり動きが止まった所を暴れる前にもうひとつ弓を打ち込み、最後は腰に帯刀している剣で首を切って仕留める。


狩りを本格的に始めたのは5年前からだ。それまで村で弓を練習したことはあったが、実際に動物にまともに当てれるようになるには1年かかった。その一年の間は親父とは狩りをしていたが、当てれるようになってからは親父とはバラバラに狩りをするようになった。今じゃ動いていても何とか当てれるようになった。その結果がこれである。




「んーとりあえずこいつを持って帰るか」




見た目以上に入る魔法の袋なんて洒落た道具は金持ちしか持ってないらしい。その話を聞いた時にはまずあることに驚いたが。とにかく俺は担いでコイツを持って帰らないといけない。


あと俺はまだ魔法を見た事がない。話は村にたまに来る行商人から聞いたんだが魔法を使うには魔力が必要だし、魔法書を使って魔法に対する理解することがそれより必要だ。だが村には魔法なんざ使える人はいないし、みんなミソッカスみたいな魔力しかないので実は誰かが魔法書を持っていて勉強できる、なんてことも起きなかった。行商人曰く魔法書はとんでもなく高価で自分のような木っ端商人では仕入れることも出来やしないんだとか。


要は魔法なんか使えなくて今までの生活はただ電気もない昔に飛ばされたのと感覚的には変わらなかった。字だけは村長とたまにくる行商人に教わったがそれもどこまで使えるかわからん。ホントに昔の村人って感じの生活をしている。そこに冒険はない。林の中での狩りは随分前に日常になってしまった。




「『ステータス』」




イノシシを持って帰りがてらに俺は自分のステータスを開示した。そこには




名前 ニック・フーパー




レベル 2




筋力 3


耐久 2


敏捷 3


知能 11


器用 8


魔力 6


幸運 5




スキル 【弓術 Lv.3】


状態 良好




基本的に動物を狩ってもレベルは上がらない。レベルが上がった時はある日寝て起きた時だった。多分起きている間の行動を経験値的な物として蓄積し、睡眠中にそれを消化していると思われる。サンプルは自分の行動と村の人々である。自分のレベルが上がって以降、毎日なるべく多くの人のステータスを見るようにしてきた。その結果基本的に朝起きた時にレベルが上がっている人がほとんどだったのだ。後は恩恵と言えるものがホントにこのステータスの可視化しかないので、使い続ければ何か隠された能力が発動するのでは?とかも期待していたりして毎日使っている。多分ないと思うが。


ちなみにこの筋力とかの各パラメーターはその時々に上下している。怪我や病気をすれば軒並み下がるし、コンディションが良ければ上がる。運もその日によって上下するので、毎朝ステータスを確認するのは自然と日課となった。これで病気の兆候なんかも状態の項目に出るし結構使えるのだ。あ、あとなぜか魔力だけは上下はほぼしない。


俺の知能だけ少し高いのは多分転生前の経験込みだと思う。ちなみに村の大人の平均の知能は6だった。スキルは得られるハードルがすごい高い。弓術は狩りを始めて3年目にやっとレベルが上がった。それから大体1年に1レベルしか上がっていない。剣に関しては弓より多少長く使っているけどスキルが発生していない。この辺の基準もまだ不明だ。 ちなみに村の大人たちの平均のレベルは4しかない。


つまりよくあるゲームの感覚でいると痛い目に遭うのだ。常に安全マージンを確保できるようにし続けて狩る必要がある。




そうそう魔物なんだけどまだ狩ったことはない。というのも1度だけ林のかなり奥まで行った時に見たことがある魔物のステータスなんだけど




名前 ギャミオス




レベル 2




筋力 15


耐久 12


敏捷 9


知能 3


器用 8


魔力 4


幸運 6




スキル 【斬撃耐性 Lv.4】


状態




このギャミオスはイノシシによく似た姿の魔物だ。さっき俺が狩ったイノシシと同じレベルなのにこの数値の違いである。さらには斬撃に対して耐性まで持っている。要はまともにやっても勝てないのだ。この時はバレないように離れて逃げた。


それ以来魔物に出くわすことはなくなった、というか林の奥に入るのを辞めた。怖すぎるからだ。命がいくつあっても足りなくなる環境に身を置きたくはない。もしかしたら魔物を狩れば経験値的なものが多く手に入るのかもしれない。少なくとも村に魔物を狩ったことのある人はいないし、自分も挑戦してみようとは思ったことはない。


そんなことを考えていると無事に林をぬけて村に帰りついた。林さえ抜けてしまえば街道のある開けた平原に出るので、比較的安全に帰ることが出来る。






「うーす。母さん戻った。成果は裏に置いてあるから」




家に着いてまず母親に声をかける。親父はまだ帰ってきてないかな?




「はーい。おかえりー。今隣のターニャちゃんが来てるわ」




ターニャは隣の家に住んでいる。同い年の少女だ。いわゆる幼馴染ってやつだ。ターニャは年相応にお転婆なところがある長い赤毛が特徴の女の子だ。行商人が決まってくるわけじゃないので、近くの街に野菜や動物の皮を売りに行き、塩などを買いに行く時にはターニャは決まって行きたがった。この村から街までは2日ほどの距離だが、広い街道沿いに行けばたどり着けるし、街道の近くでは魔物はあまり出ず、盗賊なんかも出ないのでターニャでも任せられるのだ。というよりあまり大人達は畑とかを放り出せないので、農閑期以外は若い奴が行く事になる。


今回も街に行くからその付き添いってことだろう。ターニャは少なくとも今の俺より冒険というものに憧れを抱いていて、俺よりも純粋で、昔の自分を見ているように感じられるような少女だった。街に行くってことに冒険を感じるような少女だった。




「やっほー!ニック!お邪魔してるよ!また3日後に街に行くことになったんだけど、一緒に来て貰ってもいい?」




「あぁ構わないよ。他には誰が来るんだ?」




いつも街に行く時は大抵3~5人程で行くことが多かった。それより多いと団体行動出来なくなるし、特に奇数なら意見が割れても多数決でだいたい解決できるし3人か5人で行く場合がほとんどだった。




俺は多分ターニャと仲がいいマチルダかウィルが一緒だと思ってこの質問をした。だが帰ってきた答えは少し予想外のものだった。




「ん?私とニックの2人だよ!マチルダもウィルも今は畑から離れなんないんだって!」




「嘘だろ?2人とも両親どっちも元気だったろ?」




俺も含め今名前が出た4人は全員16歳だ。この村では16歳から大人として扱われ、畑なんかも任されることが多い。だが多くはそのまま両親の畑の手伝いをすることになり、ターニャもそうだが畑から離れられない生活にはなりにくいのだが……




「んー、マチルダはお父さんがこの前を腰やっちゃったらしくて、ウィルはお母さんが弟の面倒見てるからその分働かなきゃって言ってた」




あーそうかウィルはこの前弟が生まれたばかりだったか。それなら仕方ないな。




「だがよく2人でなんて許してもらえたな」




「ニックなら大丈夫ってみんな言ってたよ」




転生した分だけ精神的に落ち着いているからかなぁ。まぁ任せられたならきっちりやるけど。




「まぁそういうことなら分かった。3日後だよな?準備しておく」




「うん!やることはいつも通りだから!」




「わかった。当日忘れ物だけはするなよ?特に飯。野宿での狩りは俺はしたくないぞ」




「大丈夫だよ!」




そう胸を張って言ったターニャだが俺は忘れないぞ。前回飯を一食分少なく持ってきていたことを。そのせいで帰り道の途中で2人揃って空腹になったことをだ。




そんなこんなで俺はターニャと街に行くことになった。別にそれは2人だけということを除けば、転生してからの何ら変わらない日常の出来事の範疇に入るはずだった。

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