準備:出発の前に振り返る

 一度決めた後の、二人の行動は早かった。ヴィオラは、ビアンカと共に皇都の商店と言う商店を歩き回って必要なものを買い求め、彼女の勧めに従って少しずつ準備を整えていく。

 旅装を新調し、用具を追加で揃え、携帯食料と術式制動二輪の燃料用に使う触媒を、必要な分量買い込む。

 その上で、全てを揃えた二人は皇都の郊外に足を運んでいた。


「それにしても。術式制動二輪車など、どこでそのような貴重品を?」

 買い込んだ荷物を側車などの収納場所へと積み込みながら、ヴィオラが問う。

「旅の途中でちょっとね。友人ながら、凄まじい技術の持ち主だったよ。しかもその試作品を、あっさりと私に譲渡するとか、もう予想の斜め上過ぎた」

 ビアンカは、携帯食料を専用のケースに収めて車体の横に接続する。加え、そこに防水仕様の布を被せた。

「ですわよね。正直なところ、この機械一台だけでも、うちの部署にいる研究者が食いつきそうですもの」

 ヴィオラも同じように、調達した旅装を包んだ袋を器用に収納していく。

 普段使いの服。身だしなみ用の簡易化粧品。それ以外に必要とする日用品。他等々。目的に合わせて梱包された袋を詰めていく。

「まあ、そうだよね。だからここに置いてきたわけでね。あと、街中でも目立つだろうからって言うのもあるけど」

「そうですわね。私ですら、この機体を分解して調べて見たい欲がふつふつと湧いてきますし。うん、このツルツルとした表面装甲。力強い動力部……」

 うずうずと動く手先で、ヴィオラが外殻表面に触れる。

「やめてね? これが無くなると、遠距離旅にかなり本格的な支障が出るから」

「わ、分かってますわよそれくらいは!」

 ビアンカの指摘に、ヴィオラがびくりと動いて、恥ずかしそうに手を離した。

「まあ、良いか。取り敢えずこれで良し。荷物の積み込み終わり」

 バタンと蓋を閉じ、二重の施錠をし、同じように防水用の布を被せていく。

 それが終わった後でビアンカは大きく息を吐き、体から力を抜いてシートに腰かけた。

「ヴィオラ、もう一度聞くんだけど。本当に大丈夫なんだよね? それなりに長旅になると思うけど……」

「愚問ですわ。むしろ他の方よりも深く古代文明と接することが出来る機会ですもの。見逃す手はありませんわ」

「……分かった。ならもう何も言わない。たっぷりと楽しい旅にしよう。ルイーナ・クラスターナでの出来事のようなことが、多分バンバン体験できると思う。それは保証するよ」

 そう言って笑いつつ、ビアンカはシートに座り直して、術式制動二輪車の駆動機エンジンに火を入れる。

「そ、それは中々、悩みますわね……」

 その笑い声を不安そうに聞きつつ、左に付けられている側車にヴィオラが乗り込み、頭部防護装備ヘルメットを身に着けた。

「さあ、また旅を始めよう。今度は……」

「ん? どうしましたの?」

 勢いよく言葉を口にして、しかし途中で喋ることを止めたビアンカに、ヴィオラが怪訝そうに首を傾げる。

「ああ、ゴメン。何でもないよ。さあ、行こう」

 そんな彼女に微笑を返したビアンカは、二輪車を発進させるのだった。

(今度は三人で……か。いや、ローザも含めて四人旅も良さそうだね)

 先程口にし掛けて止めた言葉を、胸の内で反芻はんすうしながら。

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