第31話 神鳴りの祀り:Ⅰ

 ビアンカは、とある依頼で得た報酬で、大陸東側へと旅行していた。

 久しぶりの休暇とあって、国境警備所に到着するなり、郵政公社東方支部へ宿場予約の伝書配達を依頼するほどだった。

「ふぅ。これで宿の確保も出来る、と…。次は」

 諸々の手続きを終えたビアンカは、警備所近くの駅場から馬車と御者とを借り、足を確保。荷物を整理後、大陸東部と中央部とを隔てる大河に架かる橋「龍跨ぎの大橋」を渡る。

 そこから更に走り、木造建築にカワラと呼ばれる屋根が特徴的な、最初の宿場町に辿り着いた。

「お疲れさま、絵描きのお嬢さん。良い旅を」

「有難うございました。快適な馬車旅でした。またお願いします!」

 町外れにある駅場で馬車と御者とを返却し、事前に話を通していた宿へと向かう。その宿も木造建築とカワラ屋根が特徴で、他の宿と同様に二階建ての構造をしていた。

「ようこそ、お越しくださいました。先ほど伺った、ご予約の方でしょうか?」

「はい。ビアンカと申します。今日から三日ほど、お世話になります」

「こちらこそ、有難う御座います。それではお部屋へ案内致しましょう」

 大陸東方の流儀に倣って靴を脱ぎ、部屋へと向かう。

 木造建築特有の香りと、植物由来と思われる微香性のお香の爽やかな香りとが疲れを癒してくれる。

「こちらの部屋をお使いくださいませ。必要なことについてはお部屋に説明書きが御座いますので、ご利用ください」

「有難う御座います」

 鍵を受け取り、ドアを開けて中へと入った。


 内装は大陸東方、特にヤシマ帝国の特徴が色濃く出ており、フスマやショージと呼ばれる間仕切りを始め、ザブトンと呼ばれるクッション。床にはタタミと呼ばれる床材が敷かれている。

 しかし同時に、見慣れた板材もタタミと分けて使ってもり、特に大きな違和感もなく過ごすことが出来そうだった。

「よいしょっと…。まずは…」

 ビアンカは専用の荷台に荷物を置くと、タタミの上に配置されたテーブルに地図と紙束とを広げた。そこには幾つか印が付いており、そのうちの一つには今居る宿場町が入っている。

「雷昇りの祭壇は、ここ」

 印がつけられた箇所の一つを指で指し示す。

「神鳴りの踊り場は、その先、と…」

 最初の印から少し指を滑らせ、峡谷部に付けた印の上で止めた。

「馬車は使うとして。あと、金属製の触媒は持ち込めない、と。」

 地図を確認するのと同時に紙束に書かれている文章も確認し、小物入れを手繰り寄せた。

「ずっと来たかった宿場町と見てみたかった遺跡だからね。準備は入念にしていかないと…。まあ、その前に」

 ビアンカはそう言うと、小物入れから体を洗う石鹸と着替えを取り出し、小物入れ自体は片付けてから立ち上がる。

「ここに来たならやっぱり、名物の温泉、堪能しないとね。何よりも疲れを取るのが先だ。うん、そうしよう」

 部屋に置かれているユカタという部屋着も持ち、そのまま部屋から出ていくのだった。

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