咲き誇るわ(TS)百合の花

@chinchichin

憑依転生100日目


※主人公:高田圭介くん→高田美幸さん

 ダウナー ツッコミ

 ヒロイン:高木まりな

 いまどきっ子 口調クルクル変わる 二人称もクルクル変わる でも基本的にお気楽思考※




「……あそうだ。女になったんだ俺」



 今日も嫌な朝が来た。毎朝毎朝夢なら醒めねぇかなと淡い希望と共に目覚める日々。

 朝勃ちという行為から離れて暫く、この身に実った豊かな乳房も、上からしか見えねぇんだったらなんの意味も無いと痛感してからも暫く。


 一言で言うなら『自分が女として生きてきた世界に男の自意識が憑依してしまった』という。せめてふたなりならなぁと項垂れたことが何度あったことか。



 正直アレルギーというか、オタク文化に長らく触れ続け大凡の著名なネット小説なんかは読み漁った俺だったが、例えば某二次小説サイトにある『精神的BL』やら『TS』なんていうタグがついているものは大体読まないできていたのに、なぜよりにもよって俺なのだろうと、今のところ毎日枕を涙で濡らしている。



 正直今日も布団から出たくなくて、改めて毛布を被って寝返りを打とうとして───それさえも邪魔してくる『F』の肉塊を恨みながらのそり、とやけくそ気味にベットから這いずり出た。






♢





「ちょっとあんた! また学校にズボンで行くつもりなの? いい加減スカートに戻しなさいよ、子供じゃないんだし!」


「……あー、マジでもういいからそういうの。別に思春期なんだしそれぐらい自由でいいだろ」


「ダメよ女の子は! 協調性が無いと浮いちゃうんだからね!」


「そーですね」




 キーキーうるさい母親───これは男だったときと殆ど変わらない煩わしさでかえって安心した───の声を聞きながら、今日もダボッとしたズボンに体のラインが出ないようなTシャツを着て高校に行く準備をする。


 制服はあるけど別に着なくても良い、っていうまさに俺みたいなやつの為にある校則には感謝しかないね。


 母親の大体の癇癪を思春期だから、とか反抗期だから、みたいな言葉で躱しながら逃げるように家を出る。


 高校に行くにはチャリと電車を使わなくちゃいけなくて、それも変わってねーってんで最初は楽かと思ったんだが実際はそうでも無い。


 主に筋肉量の違いと胸部のアレのせいではあるんだけど。あと身長がちっちゃくなったってのもあるかな。


 チャリはデフォで重く感じるし、朝のラッシュ時の電車は中々しんどい。

 160ちょいくらいの身長だと吊革もギリギリだし、何より化粧も全くしてねえし服装も男みたいな服で行動してんのに、どうにも周りのおっさんやらの視線が気持ち悪く感じる。



 俺は女になってる訳だが、完全に心が男のままだからさ。言っちゃなんだが男が全員ホモに見えて仕方がないのよ。多分、俺自身の見た目ってのもあると思うんだけど。


 男の頃はいけ好かないブ男だったのに女になったらまあまあ可愛いんだこれが。失礼な話ブスだったらまだ楽だったのかなぁと思わなくも無い。



 ただ、こう。なんて言うんだ、痴漢とまではいかないけどこう、雰囲気が気持ちわりいというか、あわよくば触れても事故だから! って言いそうな感じをぷんぷんさせてるやつが居んのよ、全員が全員とは言わないけどさ。


 これがほんとに気持ち悪くてやってられん。最寄りから高校の駅までたった六つなのに本当に苦痛で仕方ない。これが逆だったらなと何度思ったことか分かりゃしない。




「あー……くっせ、香水くせえのんじゃ」




 だから、女性専用車両で毎朝香水の匂いにやられながらどうにか高校に辿り着く。


 昔に比べりゃ随分慣れたがやっぱりしんどいものはしんどい。それでも高校に通わない選択肢を親が許してくれるわけが無く、そして通わなかったからと言って人生が上手くいく訳でもないからひーこらさっさと通うのだ。




「あっ! みぃ来た、おせーぞお前今日も遅刻だぞ」




 改札を抜けて駅前の広場にて、みぃ、こと俺にでかいか声で話しかけてくる女子高生が居た。

 まぁ、言うまでもなくこっちの世界での友達ってやつなんだが、『高木まりな』というこの女、前世にて男子の間では清楚代表みたいにまあまあの人気があった女なのだ。

 艶々ロングの黒髪に、男子の前限定で見せるTheお淑やかって感じの立ち居振る舞いはあの頃の俺たちにとって魅力的極まりなかったからな。顔も愛嬌ある感じに整ってるし本人の社交性の高さも相まって凄かった。前世じゃ、というか今世でも彼氏が途切れてるって聞いたことない。




「わり、なんか遅延してた」

「それ知ってるわ」

「じゃあ責めんなよ」

「それなら私はお前にLimeくらい返信しろと言いたい」




 感嘆符無しの会話を経て何の気なしに携帯を見る。するとまりなから『おせーぞなにしてんだ! ヴォイ!』

とかいうメッセージが気味の悪い動くスタンプと共に来ていた。

 わりわり、ともう一回謝ってどちらともなく歩き始める。

 俺が言った通り若干遅刻していた電車のせいで俺とまりなも遅刻ギリギリの時間。物凄く短くしたスカートにカツカツとローファーを鳴らして歩いているまりなを見るとやはり、自分も一応JKなのだということさえ忘れて見入ってしまう。




「なにジロジロ見てんだよ」


「いや、今日もJKしてんなーって」


「当たり前だろ華のJKなんだしさ、あていうか聞いて! マジ今日も痴漢されたんですけど。めっちゃ尻に手ぇ当ててきてさ、ガラス越しに見ても素知らぬ顔しててめっちゃ気持ち悪かったからネイルゴリゴリの爪突き立ててやった」


「こわ、お前も痴漢もこわ」



 おう。イキリJK特有のマシンガントーク。適当に相槌を打ちながら聞き流していく。


 ……これである。俺は最初、自分の携帯を弄っていく中でオシャレに着飾った自分とまりなのツーショットを見たとき『まじか……っ』と思って内心で飛び上がっていた。何故なら俺にとって、いや、俺にとっても高木まりなという女は高嶺の華だったからだ。

 まりなとみゆき♡とかかかれたプリクラで密着しているのは、それが女の自分だったとしても羨ましいと思ったくらいだ。

 だがやはり、現実はそんなに甘くなかったというべきか。

 こっちで話して五分で、俺の中の憧れってやつが消えていくのを感じたのだ。


 正直、今となっては普通のことだとは思うけど、前世では『高田くんっ』て呼んでくれてたのが今世では『みぃ』やら『お前』がデフォになり。

 

 話す内容は誰かの噂話と見たこともねえYouTuberの話題と恋バナが六対二対二。

 

 携帯には二,三人のキープ君と今の彼氏君のなんか何奴も此奴も似たような感じに誑かされてんなーというトーク履歴。



 などなど、などなど。童貞の俺が冷めるには十分過ぎる現実を見せつけられたのだ。




「あっそういえばさ、今みゆきめっちゃ男子にディスられてるらしいよ。急に私服でズボンになったり化粧やんなくなったとかでブスブス言われてるっぽい」


「は、誰にだよ。そいつマジで後ろからタックルして頭からコケさせて脳みそいわしてやろうかな」


「いやえぐいよみゆき。……にしてもさ、私は別に今のままのみゆきでもいいと思うんだけど、やっぱなんかあったん……?」


「別にねーよ。ほら、思春期だから」


「言い訳雑かよ」



 ま、言いたくなったらいつでも言ってねー。なんて軽い感じで締めて別の話題に移るまりな。

 ……とまあ、こんな風に逆にその人間的な魅力について知れたりとかもあったんだけどな。


 ぎゅ、となる心臓を気にしないで、また改めてまりなのマシンガントークに付き合うことにした。






♢






「あっ、てか今日一限体育じゃん!! 教室誰もいねー!」




 忘れてた。うぉあー! となっているまりなを横に、二人ぼっちの教室で佇む。

 そうだったそうだった。ていうか正直知ってたけど別に急ごうとも思ってなかった。

 時刻は8時35分。絶妙に遅刻でした。こうなってくると面倒臭いなぁと思ってしまう。




「……サボんね?」


「えー、教室いんの先生にバレたらヤバくない?」


「ドア締めてその下っかわに座ってりゃ大丈夫っしょ」


「プロかよ。あーじゃあ焼きそばパン買って」




 と。態々更衣室まで行くのも面倒くさくてサボりを提案してみれば、言葉の割に意外と素直にサボりに付き合ってくれた。

 代償は焼きそばパン一つ──乃ち百四十円。金銭的にも単位的にも全くもって得のない話だが、何よりも面倒臭いという感情に勝てなかった。




「あそうだ、見てよこれ。みゆきに似合うなーと思ってスクショしといたんだけどどうよ」


「は? なにこれヒラヒラじゃん、やだ」


「なんやねん。服装の趣味が三ヶ月前とは百八十度違ってて死にそうなんだけど」


「ほら反抗期だから」


「さっき思春期って言ってたやん!!」




 前世では信じられないくらい近くに肩を寄せあって話す。

 サボっているという背徳感と、隣にいるのがまりなだっていう事実にやっぱり物凄い青春を感じる。

 これで俺が男だったらなぁと、本当に思いますがね。

 


 そのとき、ブー、とまりなの携帯から通知音が鳴った。



「あ! ゆうやも遅延してて遅刻したってさ! どうしよ合流する?」


「…………あー、彼氏だっけ?」


「いや違う。この前ディスティニー行った男の子の一人。てかよく話してんだから私の彼氏の名前くらい覚えとけよ」


「まっじで興味無いわ」


「ふぁー! 終身名誉処女はちげえなぁ!!」


「うざ!」




 あーだこーだと喧嘩にも聞こえるキャッチボールを繰り返す。ゆーやってのは多分、三つ隣のクラスのチャラめな奴で───前世じゃ俺のことを見下すみたいに話してたオーラがあってあんまり関わらなかった人だった。


 正直嫌だなぁと思う。



「で? 今コンビニいるってよ。なんか買ってきてくれるかも」


「………………」


「うわぁ、なんかすげー嫌そうな顔してんな。分かった、『みゆきが嫉妬しちゃうからいい』って送っとくね」


「言ってろ。でもそいつ嫌いだからやだわ」


「ちょっと、私そいつとディスティニー行ったんですけどー!」




 けたけたと笑いながらホントに『みゆきが嫉妬しちゃうからいい』と送ったまりなにちょっと引きつつ、そのまま他愛もない会話を続ける。


 といっても基本聞き専の俺は突っ込んだり笑ったり、そんなことばっか繰り返してメインは専らのまりなだが。




「わ、みゆきお前、そんなゲームやってんのかよ」


「いいだろ別に。パズドラ楽しいぞ」


「そう? てか指の動きガチ勢で笑うんだけど」


「盤面最大コンボは当たり前だからな」



 

 交互に交互に。未読が二十人くらい居るまりなのLimeと、俺のまりなを含めて三人の女しかいないLimeを見比べたり。

 かと思えば俺がドヤ顔でダイエットの知識を語ってまりなにマウントをとったり、そんな風に本当に他愛も無いままで授業終了の鐘が鳴ってしまった。

 



「ああー、サボりが終わってしまったあ」


「せやな。二限なんだっけ」


「えー…………世界史!」



 世界史か。世界史かぁ。

 世界史は先生が催眠術師みたいな先生だからしんどい。

 起承転結がこそげ落ちたような念仏の授業は、いつも半分くらいの生徒が寝ているのだ。




「ええやん。あのおじいちゃん可愛いじゃんか」


「は? ちょっと何言ってるか分からないです」


「はは。みゆきはもっと萌えを理解した方がいいぞ萌えを」


「お前あのじいちゃんに萌えてんの? きっしょ」



 駄べりながら授業の準備をする。

 そうすると教室の外も騒がしくなってきて、次の瞬間には勢いよく開かれるドアと共に体育明けのクラスメイトが帰ってきた。





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