チート級転生者ばかりでウザいです。そんなことより、早くヒロインに会わせて下さい。

@yamasy

第1話

「うっぜぇぇぇぇぇぇっ!」

「ま、魔王様!?」


  薄暗く広い空間で、一人の少年が絶叫する。途端、周りにいたスケルトンたちはカタカタと音を鳴らしながら震えあがり、少年の隣にいるローブを纏った生ける死者リビングデッドは突然の声に慌てふためく。


「何なんだよさっきの奴ら!セリフの一つ一つが鼻につく!」

「し、仕方ありません!彼らは異世界から来た転生者なのですから!」

「まじでなんなん!?『俺がここを食い止める!みんなは全力で逃げろ!』……臭いセリフ吐いてんじゃねぇよ、チート野郎が!」


 少年は視線を床に転がっている5つの死体に向け、すぐにフンと鼻で笑う。


「さっさとそこの死体を片付けろ。死食鬼グールどもに餌として持ってけ。」

「はっ!おい、スケルトン!すぐに処理しろ!」


 生ける死者は傍で雑用をさせているスケルトンにすぐさま命令を出す。すると、再びカタカタという音を鳴らしながら、スケルトン達は死体へ群がり、失血死した死体を抱え部屋の外へと運び出した。





 時は二時間ほど前に遡る。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




「みんな、ここまで俺についてきてくれてありがとう。」


 青地の布に黄金の鎧を身に纏った青年が同じパーティーのメンバー達にそう告げる。

 その表情は嬉々としたものであった。


「何だよ、フィリップス。洒落臭い事いうじゃねえか。」

「全くです!フィリップスさん。」


 彼らはここから遠く離れた都市で英雄として名を轟かせているフィリップスをリーダーとしたパーティー、ローズ。

 フィリップスは周りにいる仲間達には伝えていないが、他の世界で事故死し、この世界に飛ばされた、所謂転生者だ。

 転生時にスキル〈未来予知〉を獲得した事で、敵の動きを全て先読みすることができるようになった。

そのため、巨大なモンスターに彼らの都市が襲われた際、ローズのメンバー五人で、いや、ほぼフィリップスの力のみで倒した。

 そんな彼らだからこそ、決して戻った者がいないと言われるこの地へ来たのだ。


天に向かって一直線に聳え立つ巨塔『バベル』へ。


 バベルの周辺は巨大な森林が広がっており、普通の冒険者では近づくことすらままならない。

塔に入っても、強力なモンスターが居るとか、塔に入れば底なし穴に吸い込まれる、など色々な憶測が飛び交っている。

 分かっているのは、一度向かえば帰ってくるものがいない、という事のみだ。

 今回ローズのメンバーはその腕を買われ、バベルの調査を依頼されたが、不安に思うものは一人もいなかった。

 それはフィリップスがいるからだ。そして先ほどのセリフは依頼を実行する前に、皆に感謝するというフィリップスのルーティーンであり、そんな彼の言葉だからこそ仲間たちを安心させる効果があった。




「さぁ、行こうか!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ルシファー様。かなりの速度で階層を上ってくる愚か者たちがおります。」


 悪魔将ベリアルはこの塔で最も尊い人物に、侵入者がいることを伝えた。

三年前からこの塔の主となった悪魔王ルシファー。

見た目は十歳くらいの少年にしか見えない。


「あ、そなの。その中に女の子いた?」

「はい、一人おりました。」

「え!マジ!!バフォメット、ちょっと行ってくるわ。」


ルシファーは今までソファーでくつろいでいたが、ベリアルの報告を受け飛び上がった。

驚いたのはベリアルだけではない。ルシファーの横で立っていた生ける死者、バフォメットも同じだった。


「お、お待ちください魔王様!御身を危険にさらすようなことはお止めください!」

「堅いこと言うなよ……ベリアルを連れて行けばいいだろ?」

「それであれば大丈夫でしょうが……ベリアル、相手の強さは?」


ベリアルは上がってくる者たちを監視しているゴーストからの情報を伝える。


「相手は五人。そのうちの四人は大したことがりませんが、一名厄介な者がおります。恐らく転生者かと。」

「うげぇぇぇ、またかよ。俺あいつら嫌いなんだよなぁ。みんなバケモンみたいな能力持ってんじゃん。その上、性格が聖人か!って思うほどいい奴ばっかだし。」

「あれ、ですがルシファー様も……」


ベリアルがぼそっとそこまで言った瞬間、バフォメットがキッ、と睨みつけてきた。そのため、言葉が途中で終わってしまった。


「ん、俺がなんだって?」

「い、いえ。ルシファー様もとても寛大な方で御座います、と申し上げたかったのです。」

「あ、そう?」

「魔王様、ベリアルに先ほどの続きの情報を聞いてもよろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。」

「ありがとうございます。ベリアル、続きを。」


 そう言ってバフォメットはベリアルに促す。

 ベリアルは頷き、話の続きを述べ始める。


「はい、転生者の能力は〈未来予知〉と推測されます。キメラやスケルトンメイジの攻撃はすべて先読みされています。」

「あなたが勝つ見込みはありますか?」

「はい。対峙した際には問題ないかと思われます。」


すると、バフォメットはよろしいと言い、ルシファーのほうを向く。


「魔王様、何かご意見やご質問などはありますでしょうか?」

「女の子は可愛かった?」


 バフォメットは、またか、と思うと同時にそれを表情に出すまいと努力をする。

 一方のベリアルはいつも聞かれているので、もうすでに慣れており淡々と答える。


「分かりかねます。人間の女の良し悪しは理解不能ですので。」

「そか、ならやっぱり俺も行く必要があるな。うんうん。バフォメットはここで他の侵入者が現れた時に対処を……いや、相手の能力が本当に〈未来予知〉か見分けるために、一緒に来い。ほかの侵入者がいた際には、アスタロトに対処するよう伝えろ。」

「畏まりました。」


さぁて、と言いルシファーは機嫌よく歩き出す。




「ヒロインに早く会いたいなーー!!」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「くっ、数が多いな。」

「あぁ、だけど……ハァッ!それほど強い敵は居なそうだ!」


 フィリップスは先頭に立って、襲ってくるモンスターを炎属性の魔法の宿った両手剣で屠りながら進んでいた。

 この〈未来予知〉に加え、魔法剣がフィリップスを最強たらしめる要素だ。

 その剣の能力は、一撃与えるたびに対象に毒のダメージを蓄積させるというものだ。

 敵の攻撃をよけつつ、自身の攻撃は魔法剣によってダメージを与え続ける。こうすることでどれだけ強力な敵が出てきても倒すことが可能なのだ。

 勿論、時間がかかりすぎれば体力的に厳しくなるが、その弱点に対してフィリップスはきちんと対策を取っている。彼らのパーティーメンバーの中に体力回復の魔法を使える者を配置しているのだ。このおかげで、今まですべての敵を倒してきた。


 この塔に入ってからどれだけ時間が経ったのか、フィリップス達ローズのメンバーに分かる者はいなかった。なぜならこの塔内は外からの明かりが一切入ってこず、壁沿いにあるトーチの火のみが灯りとなっているからだ。これでは太陽が今どのくらいの高さにいるのか分からない。

分かっているのは自分たちが塔を上っている、という事実だけだ。

 ここまで来る際、細い通路、大広間、階段の三つの繰り返しのみで、ずっと戦い続けていると言っても逃げ回っているわけではないので、恐らくその理解で間違いないだろう。


 一通り辺りに現れたモンスターを狩ると、フィリップス達は集まって疲労の具合を確認し合った。


「やっぱ、フィリップスがいると全員の負担が軽減されるな。」

「いつもありがとうね。」

「ううん、いいんだ。そう言ってくれるだけで嬉しいよ。」


 仲間から感謝の言葉を受け取り、素直に喜ぶフィリップス。普段から言われてはいるが、やはり気分は良い。前世では考えられないくらい自分を頼ってくる者たちがいて、それに応えるだけの力がある。これほど幸せなことはないだろう。

 そう思って再び歩を進めようとした時だった。


「うぅぅぅっ!虫唾が走るよなぁぁ。いい子ちゃんか、って。」

「っ!?」


 暗闇の奥から少年の声が突然聞こえた。

 ローズのメンバーは武器をすぐさま構え、フィリップスは自身の能力を発動させる。


「ここの主のお出ましみたいだな。」


 今だに姿が見えてはいないが、フィリップスは〈未来予知〉によって相手を既に捉えていた。

少し後、やって来たのは三人。いや人ではないからその数え方は正しいのだろうか、とフィリップスは軽く疑問に思いつつ、しっかりと剣を握る。

 一人は少年。普通の人間の子供のようだ。だがこんな所にいるのだからただ者ではないだろうと予測できる。

 その両脇に二人。少年の左側を歩くのは黒いローブに身を包んだスケルトン。だが先ほどまでローズのメンバーが戦っていたスケルトンやスケルトンメイジたちとは違い、その目は青い光を放っていた。

 右側にいるのは背から翼の生えたスラッとした悪魔。角が二本頭から生えており、自身の背中側に向かって折り曲がっている。爪はとても鋭く、自身の手の長さの二倍ほどに伸びている。


「あ、分かってるなら特に名乗らないわ。バフォメット、あいつの能力は〈未来予知〉で間違いなさそう?」

「はい、知ることが出来る未来はおよそ三十秒かと思われます。」

「っ!?」


 自身の能力が既に〈未来予知〉だと見抜かれていることに驚くフィリップス。それだけならまだしも、今まで仲間たちにも言っていなかった、知ることのできる未来の限界まで敵が理解していることに混乱した。


「あ、なら良かったわ。未来見た上で俺らと戦うなら、俺ら負け確じゃんとか思ったんだよね。良かった良かっ……」

「な、なんなんだお前たちは!!」


思わずフィリップスは声を荒げる。普段と違う彼の様子に仲間たちも戸惑う。


「あ!!女の子いた!ねぇ付き合おうよ!!」


一切こちらの質問に答えず、少年は意味不明なことを言い出す。


(こちらを完全に下に見ているという事か……負けるものか!!)


「みんな行くよ!!」

「おう!!」

「はい!」


 フィリップスが先陣を切って、三人の中で最も弱いと思われる少年に特攻をかける。それに続き仲間たちが支援魔法、攻撃魔法、後詰め、と多段攻撃を仕掛けようとする。

 まずは人数差を作るのが、強敵と対峙するときの鉄則だと知っているからだ。

 フィリップスが〈未来予知〉を発動させながら前線に出ることで、攻撃や回避をいち早く行い、同時に後続組を守ってもいる。仲間たちもフィリップスの反応をよく確認しつつ、それでいながら攻撃対象の少年からは一切目を離さない。

〈未来予知〉によればこのまま少年を切った後、次に横にいるスケルトンを狙っている自身の様子が見えた。


(いつも通りいける!!)


「男に寄って来られても全然嬉しくねぇんだけど……」

「たぁぁぁぁぁっ!!」


 少年に向けて放った渾身の一撃は、突如襲ってきた横からの衝撃によって霧散した。

 体を地面に強く打ち、肺から空気が無理やり外に押し出される。


「横から失礼しますよ。」


 声の主は少年とフィリップスの間に割り込み、彼を回し蹴りで吹き飛ばした悪魔だった。

 仲間たちはフィリップスが回避行動を取らなかったことに驚きつつも、彼を守るための行動に出る。


「かはっっ!!」

「おい、大丈夫か!フィリップス!」

「エア・カッター!!」

「ミドル・キュアー!」


 風属性呪文で悪魔をけん制しつつ、回復魔法でフィリップスを戦える状態にまで回復させる。

 だが、悪魔はその攻撃をものともせず、ゆっくりとフィリップス達の下へ歩き始めた。


「立てるか?」

「あ、あぁ、ありがとう。」

「今の攻撃、〈未来予知〉で回避できなかったのか?」

「まったく見えなかった……」

「そうか……まずいな。」

「……みんな聞いてくれ。」


 フィリップスが皆に向かって呼びかける。

 今がこれまでで最大の危機であることを悟って。




「俺がここを食い止める!みんなは全力で逃げろ!」

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