第33話 夕暮れと
「はぁ」
伸也が戻ってきたときには窓から差し込む日差しは虹色に輝く明るい光から、鮮やかな柔らかい日差しへと変わっていた。
ーーー
落胆した気持ちでベッドに腰を掛ける。
こんなときは大体スマホで動画でもみながら現実逃避を行うのがルーティン的になっているのだが、どんなにポケットを探してもそんな電子機器なんて入っていなかった。
それもそのはず、もう遥か昔のように記憶が遠のいている自分の高校では電子機器が持ち込み禁止なのだ。というか、朝のホームルームで回収されるのだ。
とはいえこんな環境でそんな電子機器を持っていたとしても、電波なんてものは飛んでいないおろか電気なんて、電柱なんてあるかすら怪しいため電卓ぐらいにしか使えないのではなかろうか。
過去を思い出したついでに今までのことを振り返ってみる。
まずはどっかから逃げてきた。なにがまずだよ、って感じではあるがここ2日、(あーまだ2日しかたってないのか。)のことが新しくてもうそんな前のことなんて忘れてしまったのだろうか。
それ以前に何から逃げてきたのだろうか。本当に逃げてたのだろうか?
考えれば考えるほど記憶が混濁してなにが本当かわからなくなる。
やめよう。
伸也は考えることを放棄した。
そのあとには荒くれもの?に絡まれたところをスタンに助けてもらったんだよな。
まあそのスタンが今の自分の上司というか先生というかそんな立場になってるなんてもうよくわからない。
まあでもなにもわからない場所で一人放浪するよりかは知っている人についていった方が、少しは安心かな。なんてことを考えていた。
ーーー
お腹がすいた。
今日はいろいろヘビーなことが起こりすぎてお腹のヘリが早くなっているのかはたまた、昨日スタンと会ったときに食べた食べ物を想像してお腹が減ったのかはわからない。
が、ひとまず考えるよりは動いた方が腹の減りがましになるかもなんて考えてよろよろとベットから立ち上がり、部屋を出る。
そのまま散歩がてらふらふらとその辺をさまようことにした。
ーーー
今日はどこも人がいなかった。というより電気がついていなか...いや違うここには電気というのはなかったんだった。
失念失念。
ひとまず歩けど人とすれ違うということはなかった。
だから思わず自分しかいないんじゃないかなんて早とちりをしてしまっていた。
ーーー
正直ここがどこかはわからない。途中、階段を2回下って少し広い部屋を数個眺めた後、今度は階段を1回上って、どこまでも続きそうな廊下を歩いていた。
...
めっちゃいいにおいがする。
そう伸也の鼻が告げてきた。体なんか、そんなセンサーを感知した瞬間動き出していた。
おもわず小走りになってしまいながらもその匂いのする方へと向かう。
そこだけ明るかった。いやそれは語弊があるかもしれない。電気よりは、LEDなんかに比べたら比でもない。でも一つの部屋から柔らかいゆらゆらとした光が辺りを照らしていた。
その部屋に入る。いや飛び込む。ゴールテープを切るかのように笑顔を浮かべながら。
そこは一言でいえば食堂だった。よくあるようなカウンターと、これまたよく見かけるような厨房、そして長椅子と長机。
人はぽつぽつとだけいた。数で言えば10人程度。
その中には見覚えのある顔がいた。
ーーー
「よっ」
という自分の挨拶にもなりえない言葉なんて意を関せずのようにもぐもぐぱくぱく、一心不乱に食べ物を食べている小動物がそこにはいた。
反応がないからそいつがひと段落するまで待つことにした。その小動物の向かって反対側の椅子に腰かける。
まさしく一心不乱という言葉の通り、がつがつとどんぶりをかき込んでいたかと思うと、そのわきにあった水の入った木彫りのグラスを手に取りこくこくと喉を鳴らしながら飲む。
そして"ぷはぁあ"という声とともに一瞬こちらに目線を向け、目を丸くする。
いや、目を丸くするだけじゃない。
「うわぁああ。」
という言葉も出ていた。
「いい食べっぷりで。」
そう伸也は言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます