第32話 局長と所属
「突然いろいろ言われて焦っただろう?まあまずかけなよ。」
なんて案内してくれたスタンには、居酒屋では感じえなかったなにか独特のオーラを感じた。
伸也は促されるまま椅子に腰かける。
座った瞬間ポフなんていう音と共に椅子が沈みこんだ。高いクッション性である。
まるでその椅子が自分にちょうどいい高さに合わせてくれたみたいな感覚を得る。
オーラに、雰囲気に、場に無意識のうちに背筋が伸びる。手汗が噴き出てくる。
伸也は混乱という2文字と緊張という2文字を頭の中に浮かべていた。つまり頭の中が真っ白なのである。
「まあそんな緊張しなくても。居酒屋で飲んだ仲じゃないか。」
それでも姿勢を変えない伸也に対して困った表情を浮かべながらも、じゃあ本題に入ろうか。なんて柔らかな口調でスタンは声をかけてきた。
「まず君はここがどこだと思っているだろう。そう、ここは冒険者ギルドだ。そして自分はこの冒険者ギルドで代表を務めているスタンだ。よろしく。」
「よ、よろしくお願いします。」
握手を求められたので握手を返す。
今まで握った手の中で一番大きく感じたように思えた。
もうスタンなんて気軽に呼べる気がしなかった。
「紹介した店は回ってくれたかな?」
「はい。回らせていただきました。」
「ありがとう。あの店たちは俺がまだパーティを組んでた頃の仲間がやってる店なんだ。今後も使ってくれたりしたらありがたいかな。」
「はい。もちろんです。」
「それはよかった。」
わずかな時間の間の沈黙、伸也にはその時間がいやというほど長く感じた。
状況を整理しようと思っても頭が真っ白のためなにも思い浮かばない。
スタンが咳払いをした。
伸也は背筋を伸ばす。いや現実的に見れば伸びきった背筋をどんなに伸ばそうとその長さは変わらないのだが。ただ腰が痛いだけなのだが。
「本題だが君はこの先、どこか行く当てはあるのかい?」
ーーー
この言葉がスタン、もといスタンさんの言いたかったことなんだろうと勝手に理解した。
数分、いや数秒、目をぐるりとさせる。といっても意図的にしたわけではないのだが。
ただ、思い出しているだけなのである。考えているだけなのである。この回っていない脳みそで。
「いえ、ないです。」
そういった反応を見てか、この場の空気が若干温かみを帯びたというか、雰囲気が変わったというか、そんな気がした。
すかさずスタンさんが間髪入れずに話してくる。
「そうか。折り入って相談なのだが、この冒険者ギルドに入って冒険者になってくれないか?どうやら君はこの国のこと自体あまり知らないみたいだし、あまり・・・戦闘経験もなさそうだ。」
「だがここに入ってくれれば、新人研修ということで知識と技術を用意できる。もちろんその研修が終わった後には仕事を斡旋しよう。」
「はい」
伸也はそう言わざるを得ないように感じた。というのは建前?で、本心は本心というか実情は、ただ話を相手の都合の良い方へ方へと流されただけである。
そう考えてみるとここまでの人生そうやって流れに逆らわずにそっと影を隠そうと、まぎれようと生きてきたんだろう。なんて今考えるべきことには則さない、なんとも平和ボケした脳みそを回転させているうちに、話は終わっていた。
伸也は冒険者ギルドの生徒になったのだった。
ーーーー
Another
「以外にちょろかったですね。あいつ。」
「ああ。本当に良かったよ。断られたらどうしようかなんて考えたくなかった。手続きはもう完了してるしな。」
「でもよくあんな奴スカウトしてきましたね。どこからどう見ても、もやしじゃないですか?決してスタン様の目を疑っているわけではないのですが。」
「あの店で話したときに俺の知らないことがいろいろ出てきたんだ。そこに興味を持ったという感じかな。」
「とは言いますけど、あれで生き残れますかね。本当に平和ボケしてるという印象でしたが。」
「生き残ったら儲けものみたいな気持ちでいくさ。」
「利益上がるといいですね。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます