エリート魔法使い、サイコパスにつき:殺そうとした彼女は、勇者の末裔だったらしい

ファンタスティック小説家

第1話 殺人鬼と勇者 1

 

 私は病気だ。


 今日も「作品」を作りたくて、作りたくて仕方がない。


 私は芸術家だ。


 明日も、そのまた明日も、私は前衛的でありつづけるだろう。



 私がはじめて人の皮を剥いだのは10歳のころ。


 はじめは些細な衝動だった。


 大きくなって、私に嘘をつくようになった、妹のマリアの気持ちを知りたかったのが理由だ。


 かわいい顔をしている彼女と、もう喋れなくなると考えたとき、もったいないとも思ったが、それでもそれは、私の好奇心にまさるほどの感情ではなかった。



 はじめて、作品を作ったのは15歳のころ。


 気のあう友人との共同制作だった。


 魔術学院で出会った彼の両親をバラしてふわけした。


 彼の家は学費にこまっていたから作品は、すべて彼の一存で売ってしまった。


 ただ、今にして思えば、それはないだろうと私はかんがえる。


 仮にも両親だ。

 ただの暗黒魔術の触媒として、カルト教団に売り払うのはもったいなかったとおもう。



 20歳になったころ、私は自分に正直に生きることにした。


 魔術学院を卒業して時間があった私は、とても精力的に作品のせいさくに従事した。



 22歳になった時、私は人間の限界を感じるようになっていた。


 人体のふわけ作業には体力がいる。


 それに運も大きく関わってくる。


 特にスキンの熱烈な収集家としては、ご協力時に抵抗されると、とっても萎えてしまう。

 皮は美しいが、傷つきやすいのがネックだ。


 幸いにも解決策はすぐにみつかった。


 かつて取引したことのある、暗黒魔術に精通するカルト教団は、私がのぞむ超常への渡り船だった。


 不可能を可能にする超常……それは悪魔と呼ばれる、教会の意思に反する絶対悪の象徴だ。


 悪魔との契約はかなった。


「あーははははっはは! 我輩の能力がいらなくなったら返しに来てくださいねぇえ〜! そうすれば貴方の支払ったものも残らずお返しましょうぉお〜」


 悪魔はそう言って、俺から50年の寿命を受け取り、ふたたび混沌の世界へと帰っていった。


 それ以来、私は人体を自由にふわけ出来るようになった。


 極めて難しい概念能力だったが、大学でならった魔法の知識に頼れば、力のコントロールはかなった。


 首席で魔術学院を卒業していてよかった。

 知識と思考は墓場までもっていける財産だ。


 悪魔の力≪ドリームランド≫を習得してから、私の作品作りへの熱意はますます大きくなっていった。


 はじめに能力を試したのは私の母親だ。


 母はもういい年だった。

 早めに分解して保存しなければ、劣化してしまうことが危ぶまれた。


 能力は正常に作動した。


 私は母に触るだけで、その五臓六腑、腕足、眼球、皮膚にいたるまで、すべてを綺麗にわけることができた。


 最高の気持ちだった。


 気がついたとき、私は真っ赤に染まった実家の居間で……勃起ぼっきしていた。


 股間のせかす衝動には耐えられず、そのまま抜いた。焼きつくようなあの快感はいまでも覚えている。


 世間で連続殺人事件がさわがれるようになると、私は念のために街をでるようにした。


 そうして、噂が広まるたびに、街を渡り歩く生活。


 故郷をはなれて、もう4年がたった。


 26歳になった今、私はヨルプウィスト人間国の首都エールデンフォートで幸せに暮らせている。


 職業は国立魔法大学の教師だ。

 本業の作品制作は順調である。


 私の人生は、いまだに不充実というものを知らない。


「先生ぇ〜なに書いてるのー?」

「っ」


 明るい声が、すぐちかくで聞こえた。


 日記を書く手をとめる。


 そっと表紙の手記本をとじ、顔を上げれば、教え子のクリスが、手元をのぞきこんできていることに気がついた。


「日記だよ、クリス。最近、よくむかしの事を思い出せなくなって来ているんだ。だから、ボケでしまわないうちに、こうして大切なことを記しておくんだよ」

「えぇー、先生はまだ若いのに……変ですねー!」」


 クリスは愛らしい顔でクスクスと笑った。

 燃えるような赤毛の毛先、艶やかな金髪。

 元気よく揺れる、揺れる、発育の素晴らしき胸部。


 あぁ、なんて綺麗な娘なんだろう。

 この子もはやく保存してあげなければ。


 そっと伸びていく右手。


「っ」


 いけない。


 無意識の動作、慌てて右手を引っこめる。


「あ、もう帰らないと。じゃあね! 先生、また明日ー!」

「あぁ、また明日」


 さっていくクリスに手をふる。


 最後の生徒がかえったことを確認し、私は教室から廊下へ出た。

 ひんやりとした空気が、1日の終わりをつげる。


「残念だが、クリス……明日はこないよ、君にはね」


 独白気味に静かにつぶやき、寒い廊下をあるきながら、私は懐から取りだした日記を開く。


 日付けは1月12日、昨日だ。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私は今日、ひとりの少女に告白を受けた。


 彼女の名はクリス、私の教え子だ。


 優秀な子で、座学も実技もよくできる。


 彼女の気持ちは嬉しかった。


 私は彼女を愛している。

 彼女も私を愛してくれている。


 だから、私は彼女の気持ちに応えようと思う。


 幸い、彼女に両親はいないようだ。


 大丈夫、すべては予定通りにいく。


 1月12日の私より


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 日記を閉じて、ふたたびコートのうちポケットに大事にしまう。


 過去の私からのメッセージは、必ず遂行される確定した未来だ。


 あぁ、愛しい教え子、クリスよ。

 もうすこし待ってておくれよ。

 身支度を整えたら、すぐにいくからね。

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