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@motowokakuyo

第1話


やあ皆さん、俺は名もない黒猫。自慢はこの直角に曲がった鍵尻尾だ。どうだい、いかしているだろ?それなのに人間とか言う奴らは、なんでか知らないけど俺のことが嫌いらしい。だって俺はいつもどこかケガしてる。信じられるか?あいつら俺を見かけたとたんに石を投げてくるんだぜ。まったく、災難だ。こっちはちょっとあいつらのお残しをいただいてるだけなのに。むしろ捨てたもんを減らしてやってんだから感謝してほしいぜ。あー、飯の話してたらおなかすいてきたな。そろそろ夕飯時だしいつものところに行くか。


名もない黒猫はご自慢の鍵尻尾を水平に週末の大通りを威風堂々歩き出した。


お、ここここ。よし人はいないな。ここは食べ物屋の裏でよく食べ物が変な箱の中に置いてあるんだ。今日は少ないな、まあいいか、食べれるだけ感謝しないとな。しっかし、人間てやつは馬鹿だなあ。なんでこんなとこに食べ物なんか置くんだか。これじゃ俺みたいなやつに盗まれんのは簡単にわかるのにな。ま、そのおかげで俺はこうしていられるんだけど。じゃあいただきまーす。


と名もない黒猫がご飯にありつこうとしたところで一人の人間がごみ袋をもって裏戸から出てきた。

「またこんなに廃棄が出ちまったな。まったくもったいないぜ。」

ガタガタッ

「ん?あ!この黒猫め、また来てやがったか!」

まずい、また石投げられる。早く逃げんと。じゃあなおっさんご飯うまかったよ、また来るぜ。

「ちくしょう、今度来たらただじゃおかねーぞ!」

名もない黒猫はそんな声をしり目にあっという間ににげだした。


ふう、ここまでくれば大丈夫だろ。まったく、びっくりして無駄に遠くまで逃げてきちまったぜ。しかしあんなに怒らなくてもいいよな。大事なものならあんなとこに置かなきゃいいのに。でもあのおっさんには申し訳ないけど、俺も食べなきゃ死んじまうからな。とはいえあんま食べれなかったからなあ。仕方ないもう一つえさ場に行くか。今度は人間いないといいな。


と名もない黒猫が歩き出したとき若者の声が聞こえた。

「よかった、いたいた」

若い男が一匹の黒猫を抱き上げた

ん?なんだ?うわやめろ、はなせ!

「こんばんは素敵なおちびさん。なんだか僕らよくにているよ」


名もない黒猫は必死にもがき、そしてひっかいた。腕の中から逃げ出すと黒猫は走った。ひたすら走った。生まれて初めてのやさしさが、温もりが信じられなくて必死に走った。孤独という名の逃げ道を。でもダメだった。どれだけ逃げても変わり者はどこまでもついてきた。ついに黒猫はあきらめた。

「やっとあきらめてくれたね。さあおちびさん一緒に暮らそう」

と汗だくになった変わり者が言った。


変わり者は絵描きだった。彼のスケッチブックはほとんど黒ずくめで、いつも黒猫のことを描いていた。

なんだってこいつは俺のことばかり書きやがるんだ。そのせいでこんな貧乏暮らししてやがる。でも絵描きは優しかった。いつもご飯はくれるしいたずらしても怒らない。正直言って最高の暮らしだ。まさか嫌われ者の俺がこんな飼い猫みたいな生活ができるなんて夢にも思わなかった。


そしてそんな生活が続き二度目の冬を迎えた。

「そうだおちびさん、今だから言うけど、実は君を見つけた日、君がご飯を食べてるところの絵を描いていたんだよ。でも店主さんに見つかって君が逃げ出してしまったからね。どうしても君のことが描きたかったから見つけたとき「よかった、いたいた」なんて言ったんだよ。」

猫に気づかれずに絵を描くとかどんだけあんたかげうすいんだよ

「ところでおちびさん、思ったんだけどいつまでもおちびさん呼びではいけないと思うんだ」

ちょうどクリスマスだしねといって絵描きはなにやらスケッチブックに文字を書きだした。

「おちびさんはきれいな黒い毛並みだからね、よしできた。我ながらいい出来だ。いいかいおちびさん、今日から君の名前は黒き幸[holy night]だ」


黒猫は本当にうれしかった。こんな嫌われ者の自分にやさしくしてくれる絵描きが本当に大好きだった。

でもだめだった。長くは続かなかった。ある日貧しい生活に絵描きは倒れてしまった。当然だ。不吉な黒猫の絵など売れるわけがないのだから。だから絵描きは最後の手紙を書いてholy nightにこう言った。

「いいかいholy night。走って、走ってこいつを届けてくれ。絵描きの夢を見て飛び出した僕の帰りを待つ彼女のもとへ。頼んだよ」


まったくなんであんたはこんなにバカなんだ。売れやしないのに馬鹿の一つ覚えみたいに俺の絵ばっか描いて。でもな、そのせいであんたは冷たくなったけど、それでもおれはあんたのことが大好きだった。じゃあな、手紙は確かに受け取った!


と黒猫は一目散に走りだした。


雪の降る山道を黒猫が走る。今は亡き親友との約束を咥えて。


あいつとの生活のせいで忘れていたがそういえば俺は嫌われ者だったな。あー、なんでったってこんな寒いんだ。くじけそうになる。いやだめだ、約束しただろあいつと


それでも容赦なく災いは訪れた。

「見ろよ、悪魔の死者だ!石投げてやれ」

体に走る激痛、それでも黒猫は走り続けた。

なんとでも呼ぶがいいさ。俺には消えない名前があるんだ。あいつは呼んでくれた。今でも鮮明に聞こえてくる。

「holy night」

と、やさしさも温もりもすべて詰め込んで呼んでくれた。腕のなかへおいでと言って俺の孤独をやさしくなでてくれた。こんな嫌われ者の俺にも意味があるとするならこの日のために生まれてに生まれてきたんだ。どこまでだってはしってやる!


黒猫はついに親友の故郷にたどり着いた。恋人の家まであと数キロ、黒猫は走った、転んだそれでも走った。すでに満身創痍だった。立ち上がる間もなく罵声と暴力は襲ってきた。それでもちぎれそうな手足を引きずり走り続けた。


みつけた!このいえだ!


偶然外に出ていた恋人の前まで歩いていくとそこで黒猫はたおれた。


「あなた!大丈夫!?」

恋人は声をかけて近寄って行ったがすでに手遅れだった。やがて恋人は手紙に気づきそれを読み終えるともう動かない猫の名前にアルファベットを一つ加えて庭に埋めてやった。聖なる騎士『holy knight』を埋めてやった。

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