第10話 始まりの試練8周目 2/3階層
階段を降りて今までの最高到達地点である第二階層へ潜る。
目に入るのは光る壁に囲まれた部屋。階層の
先程まで第一階層をくまなく回って、全てのアイテムを回収した。魔物に怯えて次の階層へ急ぐより、じっくりとアイテムを回収したほうが生存率は跳ね上がる。
それに急ぐと罠を踏んだ時の対応も遅れる。急いだせいで毒霧の罠を踏んで、しこたまに毒を喰らって、汚物と血を吐きながら苦しんだ記憶が蘇る。
「あの時は頭が真っ白になって、さらに毒ポーションを飲んだからなあ」
その時は毒治癒ポーションと毒ポーションを持っていたのだが、余りに名前が似ているので間違えてしまった。
毒の重ねがけは無知蒙昧な俺を戒めるように、筆舌に尽くしがたい苦しみを与えてくれた。
今は瓶の形状を覚えているので間違うことは無い──はずだ……。
「ガハハハ!」
辛い記憶がフラッシュバックして思わず笑ってしまう。これは心の防衛機構だ。辛い時こそ笑えと神が言っているのである。
「おっと、いかんいかん」
気を引き締める。ここは戦場だ。
それに毒ポーションは非情に、いや非常に有用だ。剣に塗れば毒の剣となり、食料に混ぜれば毒餌となる。
切羽詰まった時は直接投げても良い。運が良ければ相手に中身が掛かるだろう。
第二階層の注意すべき点は魔物の種類だ。一階層に比べて強い個体が多い。ドラゴンの幼体であるプチドラゴンなどは最たる例で、彼らは属性ごとのブレスを吐く。
赤いプチドラゴンなら火炎ブレス。黄色なら雷光ブレス。どれもまともに喰らえば致命傷になりかねない。
「だからこそ、スクロールの出番だ」
スクロールは起死回生の一手だ。この始まりの試練でも様々な種類のスクロールが落ちており、効果もスクロールの数だけ違う。
「試しに使うか」
拾っていた「鋭き剣のスクロール」を開くと、手持ちの鋼鉄の剣+2が光を放つ。そして強化値が+2から+3へ強化された。
気持ち程度にしか強くはならないが、これから長いダンジョンに挑むことがあれば、この強化は非常に重要になる筈だ。
防具も前の階層で拾っている。青銅の鎧、鉄の兜だ。個人的には弱い部類の防具だが、無いよりはマシだ。
薄手のシャツ一枚では何も防げない。矢はシルクのような柔肌に食い込むし、斬撃はジューシーな肉を切り裂くのだ。
だから拾ったら取り敢えず装備する。良いのが拾えたらその都度乗り換えるのがベストだ。
部屋を見渡す。
周りには敵もアイテムもない。不気味なほどの静寂が場を支配しており、ダンジョン内に流れる風の音しか聞こえない。
少し息をつき、アイテムボックスから目当てのアイテムを取り出す。「壁消しのスクロール」と「雷鳴のスクロール」だ。
これを使って二手で敵を
「ククク……」
これから起こる大惨事。それを想像すると笑いを抑えきれない。
喜びとともに壁消しのスクロールを勢いよく開き、その効果を顕現させる。
──爆音を上げて全ての壁が崩れ落ちる。不思議と天井が落ちてくることは無い。
10体を超える魔物がこちらを見つめる。殺意に溢れた目だ。俺を焼き、溶かし、切り裂き、引き千切り、そして喰らうことしか頭に無い。
怯むこと無く魔物たちを見つめ返し、口を開く。
「さあ死を始めよう!」
テンションが上りすぎて変な事を口走る。周りに誰も居なくて本当に良かった!
気を取り直して雷鳴のスクロールの封を破り勢いよく広げる。さあ食らえ。
──雷が轟き、地震のようにダンジョンを揺るがした。全ての魔物は雷光により死に絶え、焼けた死体から出た煙が地を這うように流れている。
予想通りの結果だ。
雷鳴のスクロールは部屋内の魔物に雷を落とす。ならば壁消しのスクロールで「全ての部屋を一つにすれば」全ての魔物に効果がある。
問題点としては壁消しのスクロールが貴重品だということ。これはダンジョン内でもめったに見ないレアアイテムだ。
「はは、はははは……」
大戦果に乾いた笑いが漏れる。生き残る魔物もいるかと思ったが、あいにく耐えれた魔物は一匹もいない。まさに
敵のいない階層を我が物顔で歩く。アイテムは拾い放題だし、気をつけるのは罠くらいだ。
アイテムを拾いすぎるとアイテムボックスが一杯になるので取捨選択する必要がある。
次の階層で最後なので食料は全部食べるし、石などの何処でも拾えるアイテムは捨てる。
あれを捨てるのが勿体ない。これは残したほうが良い。そう考えながらアイテムボックスを整理するのは非情に楽しい。コレクター気質が刺激される。
アイテム整理を終わらせて、辺りを散策していると階段を見つける。次が最後の階層だ。
「三階層……初見だな」
僅かな不安と高揚感を胸に抱き、階段をゆっくりと降りる。体調は万全。アイテムも十全。あとは知恵と勇気さえあれば何も怖くない。それに関しては持っているとは言い難いが。
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