外れスキルの追放王子、不思議なダンジョンで無限成長

ふなず

第一章

第1話 プロローグ──辺境から始まる領主生活

 王宮には魔物が住む──と言われている。


 実際に王宮内で魔物がウロウロしているという意味ではなく、陰謀溢れる王宮内では、魔物より非道な人間が育まれるということだ。


 俺が王族の第12子として生まれてから8年、饗宴中に兄上が血を吐いて倒れた。とても優しい兄上だったが、その優秀さを妬まれて毒殺されたのだ。

 喉を掻きむしりながら死にゆく兄上を見てほくそ笑む他の王位継承者達。なんで同じ血を引く兄弟を殺して笑えるというのか。


 10歳の時、弓の稽古の最中にまた事件は起こった。武に優れた兄上が的に刺さった矢を抜こうとした時、突如矢が兄上を襲った。矢を射たのは下級騎士であり、すぐさまに捕縛されて処刑された。

 けれどあれも他の王位継承者の策略だったと今になっては思う。


 それから6年が経ち俺は16歳となった。

 俺、アンリ・ボースハイトは暗殺に遭うこと無く生き延びている。なぜなら外れ王子だからだ。


 王族の血は長い時間を掛けて醸造されたワインのようで、代を重ねるごとに優秀さを増してきた。大体の王子はレアスキル持ちとして生まれて、その才能を活かしている。


 だが俺は歴代まれに見る外れスキル持ちとして生まれた。


 ──『ステータス保持』それが俺のスキルだ。読んで字の如く、俺は老化・病気・怪我をしてもステータスは下がらない。だけどそれだけだ。


 俺のスキル鑑定をした大魔術師の、なんとも言えない顔は今でも思い出せる。「老人になってもボケる事はないでしょうな」と抜かして髭を扱いていた。


 そんな訳で俺は殺す価値もない王子として周りに認識されている。そのため暗殺のターゲットとしても選ばれていないし、何とか16歳まで生き延びてきた。


 不遇とも言える人生だとは思う。

 だが、一度でも人生という坂を転げ落ちたならば、どこまで落ちるかなんて誰にも分からない。それを俺は身を以て知ることになる。



 ◆



 今、俺は何一つない草原の上に佇んでいる。風が吹くと緑の大地がなびきとても綺麗だ。


「それではアンリ殿下、ご健勝をお祈りします」


 兵士はパンや水が入った大袋を、馬車から無造作に放り投げる。


「もう少し何とかならんですか? ほら俺って一人しか居ないわけですし」


「ならんです。それでは私は王都に戻ります」


 馬が嘶きを上げて、車輪がゴトリと音を上げる。兵士が手綱を引けば馬車はどんどんと進んで、遠くに消えていった。


 俺の状況を端的に言うと──追放された。その一言に尽きる。

 16歳の成人の儀において、今後の王族内での職務を言い渡されたのだが、それはこの草が広がる地の領主になる事だった。他の王位継承者がニヤニヤと笑っていたので、何かしらの手回しをしたのだろう。こんな外れ王子でも排除するというのか。


 草草草、草しか無い。遠くに山も見えるが、それがどうしたというのだ。


 さらに悪いことに、ここは国境付近の見捨てられた地。もっと王国内に進めば国境の都市があるが、歩いて行ける距離ではない。

 魔物や盗賊が跋扈するこの地において安息はない。統治するにもコストが掛かりすぎて、王国内でも半ば放置されているのだ。


「隠れられる場所を見つけないと、魔物に喰われそうだな……」


 大袋を引っ掴んで草原を探索することを決める。山を見やればワイバーンの群れが悠々と飛んでおり、俺の心胆を寒からしめた。あれがもし気が変わって草原に降りてくれば、一瞬のうちに殺される。もしくはワイバーンのヒナの餌にされる。


「もう嫌だ……ベッドで眠りたい」


 できるだけ姿勢を低くして草原を進む。手持ちの食料を考えると、安全な場所を今日中に確保しないとマズイ。

 そして明日には食料を自給する手段も考えないといけないのだ。


「呪われろボースハイト家よ」


 ぶつぶつと呪詛を吐くが事態は好転しない。そもそも俺もボースハイト家の一員なのだが。


 それから半日。日が落ち始めて辺りが暗くなってきた。相変わらず建物などは見つけていない。


「マズイな。これは詰んだかも知れん」


 独り言でも呟かないと精神が持たない。

 足が棒になりそうだが、それでも草原をただただ進む。夜の闇で生き延びられるとは、とても思えないからだ。



 ──踏み出した右足が地面を踏んだ瞬間。音を立てて地面が崩れた。体の制御を失った俺は土や草とともに、地中に落下する。



「痛たた……なんだ落盤か……」


 幸運なことに怪我はない。上を見上げれば大人三人分はあろうかという高さがある。下の土がクッションになったせいか、骨折などはしていない。


「縦穴かあ。上には……うん頑張れば上がれるな」


 壁面はただの土なので、頑張れば登れるだろう。しかしふと思う。この穴の中って安全じゃないかと。そうと決まれば話は早い。

 俺は土を手でほじくって横穴を更に掘り、今晩の寝床のためのスペースを確保しようとする。これなら上から覗かれても気にもされないだろう。


 ひたすらに掘っていると、何とそこにはドアがあった。見たことのない材質で出来ており、周りの土を落として全容を見てみる。


「何だ……これは」


 見た目は岩のようだが長い間地中にあったにもかかわらず一切の欠損が無い。触れば金属のように硬く、ヒンヤリとしている。

 ドアを開けると空間が広がっていた。ドアと同じ材質の壁と天井。窓は当然だが無い。部屋の中には石碑とさらに地下へと続く階段がある。


 俺は石碑のホコリを払い、読み取ろうとする。


「全く読めんな。これは……古代語か」


 はるか昔に栄えた古代文明。今より進んだ魔法技術を持っていたようだが、長い歴史の中で滅んでいる。石碑の文字はその古代文明で使われていた字に酷似している。昔に座学で習った覚えがある。


 石碑を更になぞると頭の中に声が流れ込んできた。


《ЖШНΓΞЁПЮ》


「何だこれは!!」


 聞いたことのない抑揚と発音が脳内に響く。


《言語解析完了─始まりの試練にようこそ─》


 次に聞こえるのは聞き慣れた母国語。「始まりの試練」とは一体何のことだというのか。

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