京都魔界伝説殺人事件

近衛源二郎

第1話 猿が辻   

鳴くよ鴬、平安京という言葉で覚えている京都の街の始まり。

年間の観光客は5千万人という世界有数の観光都市である。

北は今出川通りから南の丸太町通り。東の寺町通りから西の烏丸通りまで、東西に約250メートル南北に約450メートル。

面積は約11万平方キロメートルという広大な京都御所がある。

人口が140万人を越えるわりには、静かな街である。

人口140万人といえば、けっこうな大都市である。

しかも、年間観光客が5千万人という日本最大の観光都市であるが、静かなのである。

小春日和のある晴れた金曜日の昼下がり、2人の男が河原町通りの西側歩道を北向きに歩いている。

『警部、コーヒーの香りが、めっちゃ凄いんですけど。』

『あぁ、輸入食品のお店や。

お店で焙煎して、家庭の器具に合わせて挽いてくれるんや。』

凄いコーヒーの香りである。

京都府警察捜査1課、本間警部と新人刑事の真鍋勘太郎。昼休みの食後に散歩がてら歩いていた。

2人の横を、けたたましいサイレンを鳴らしてパトカーが通り過ぎた。

合計15台。

最後の1台が覆面パトカーで、2人の横で止まった。

『警部、乗って下さい、殺しです。勘太郎も乗れ。』

助手席から、木田警部補が叫んだ。

最近、この3人で数々の事件を解決している。

最強のトリオとの呼び声が高くなっている。

河原町今出川の交差点を西に曲がって寺町を過ぎた朔平門から御所に入ったところからパトカーがあちこちに停車している。

覆面パトカーは、捜査1課長が乗っているため、現場ギリギリまで入って停車した。

『警部、お疲れ様です。』

皆、口々に挨拶してくる。

『おう、皆お疲れ様。

 害者の身元は、わかる物あっ

 たんかい。』

『いいえ、身元証明とか、何も持ってませんでした。』

誰かが返答した時、勘太郎が、声をあげた。

『この人、姉小路公康さんやな

 いんですか。

 日本舞踊の姉小路流の家元

 の。』

 『なんや勘太郎、知ってる

  人か。』

木田警部補の質問。

『ハイ・・萌の踊りのお師匠

 さんです。

 たぶん。間違いないと思い

 ます。』

勘太郎、すぐに高島萌に電話した。

すぐ近くにある、同志社女子大学にいるという。

勘太郎の説明を受けて、高島萌が、1人の女の子を引き連れて、小走りで、現場に近づいた。

『あの、高島萌って言います。

 身元確認にきました。』

めちゃくちゃしっかりしている上に落ち着いている。

『本間警部さん、木田警部補

 さん。

 こんにちは。

 いつも、うちの勘太郎がお世話

 になってます。

 この娘、私の同級生で、

 姉小路公康先生の娘さん

 です。』

高島萌、本間警部を育て上げた、京都府警察の伝説的鬼警部、高島甚之助の娘で、真鍋勘太郎のフィアンセ。

勘太郎が、すでに高島家に間借りしていることから、もう、完璧にマスオさん状態。

そんな2人を横目に、姉小路公康の娘、須美香が泣き崩れた。

『須美ちゃん、間違いないの。』

どうやら、間違いないらしい。

姉小路須美香は、半狂乱になっている。

当たり前だろう。

目の前に、無惨に殺された父親の遺体を見たら、しかも、まだ20歳代前半の普通の女子大生なのである。

萌が須美香を抱えるようにして、立ち上がり、箱型パトカーの後部座席に座らせて、慰めている。

事件現場に本間警部の指示が飛んだです

『よっしゃ、被害者は、姉小路公康氏、53歳。

日本舞踊、姉小路流の家元。

身元は、お嬢さんの須美香さんが確認してくれた。

全捜査官、気をつけ、被害者に黙祷。』

私服刑事、制服警察官、鑑識員、科学捜査研究所の研究員まで、100人以上が、一斉に黙祷を捧げた。

その光景に、また須美香が号泣した。

その時、朔平門の外に停車したタクシーから、品の良さそうな和服の女性が、走ってきた。

『須美ちゃん・須美ちゃん』

半狂乱で、須美香を呼んでいる。

『おば様、ここです。

 須美ちゃん、ここに

 いますよ。』

箱型パトカーの中から、萌が婦人を呼んだ。

須美香の母親で、姉小路公康の

妻、姉小路孝子。

被害者、公康氏の遺体は、見るも無惨なもので、全身を、何十箇所も刺された痕跡がある。

『奥さん、お嬢さん。

 お話し聞かせていただきたい

 ので、本部まで、ご一緒に

 お願いします。

 萌ちゃんも、頼むわ。

 帰りは、勘太郎で良かったら

 送らせます。』

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